tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『FINE DAYS』本多孝好

FINE DAYS (祥伝社文庫)

FINE DAYS (祥伝社文庫)


死の床にある父親から、僕は三十五年前に別れた元恋人を捜すように頼まれた。手がかりは若かりし頃の彼女の画。僕は大学に通う傍ら、彼らが一緒に住んでいたアパートへ向かった。だが、そこにいたのは画と同じ美しい彼女と、若き日の父だった…(「イエスタデイズ」より)。異例のロングセラーとなり、新世代の圧倒的共感を呼んだ著者初の恋愛小説、待望の文庫化。

本多孝好さんの処女短編集『MISSING』を読んだとき、「この作家さんは恋愛小説のほうが向いてるんじゃ?」と思ったのですが、この『FINE DAYS』を読んでその考えは間違っていなかったと思いました。
本多さん独特の透明感があって少し切ない文章は、読んでいて心地よかったです。
また、収録されている4つの短編全てにおいて、恋愛を基軸としながらも、キーとなる事実を最後に明かすという書き方をすることによって、ミステリ的なエッセンスも楽しめるようになっています。
私が一番好きな作品は「シェード」。
アンティークショップの老婆が語る物語と、主人公が現実に今経験している恋愛とが徐々に重なっていく様子が印象的に描かれています。
ラストシーンはまさにろうそくに小さな炎を灯すような、ほのかな暖かみを持った光が感じられて感動的でした。
でもできればこの作品は12月のクリスマス前に読みたかったかも。
この「シェード」を含め、4編とも「死」がどこかに関わっているので少し重い雰囲気も持ちつつも、なかなかうまくつながることのできない男女の心を静かに描いていて非常に好感の持てる短編集でした。
☆4つ。