tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『毒笑小説』東野圭吾

毒笑小説 (集英社文庫)

毒笑小説 (集英社文庫)


塾にお稽古に家庭教師にと、VIPなみに忙しい孫。何とかゆっくり会えないものかという祖父の訴えを聞いて、麻雀仲間の爺さんたちが“妙案”を思いつく…。前代未聞の誘拐事件を扱った「誘拐天国」をはじめ、毒のある可笑しさに満ちた傑作が1ダース!名作『怪笑小説』に引き続いて、ブラックなお笑いを極めた、会心の短篇集。「笑い」追求の同志、京極夏彦との特別対談つき。

『怪笑小説』に続く東野圭吾さんのユーモア短編集です。
これも笑えるもの、ぞっとするもの、ちょっと切ないものなど、いろいろな作品が詰まっていて楽しめました。
やはりこれも全体としての評価は☆4つくらいでしょうか。
では、各作品の簡単なあらすじ&感想です。


「誘拐天国」
幼稚園児だというのにお勉強で超多忙の孫とゆっくり遊びたい裕福なおじいさんのため、富豪仲間のじいさんたちがその孫の「誘拐」を企てるというお話。
とにかくこの作品に出て来るお金持ちたちの庶民とはかけ離れた感覚が笑えました。
まるで「富豪刑事」のような…(笑)
「お受験」についてもさりげなく皮肉っています。


「エンジェル」
地球上に撒き散らされた放射能の影響で誕生したと思しき、謎の新生物「エンジェル」をめぐる物語。
これは妙なリアリティがあって怖かったです。
そのうちこれと似たような、人間の環境破壊が原因で何らかの遺伝子変化が起こって生まれてくる謎の生物が出てくるんじゃないかと…。
「エンジェル」を食べる日本人とそれに反対する欧米人との対立が、クジラ論争を思い起こさせてこれも皮肉っぽいですね。


「手作りマダム」
ものすごく下手なのにいろいろなものを手作りしては夫の部下の奥さんたちに振舞う、迷惑なマダムのお話。
これまた本当にいそうですよ、こんなおばちゃん…。
本人は良かれと思ってやっていることなので、これが断りにくくてまたやっかい。
手作りソーセージの匂いがあまりにひどくて犬すら逃げ出したというくだりには笑ってしまいました。


「マニュアル警察」
衝動的に妻を殺してしまった男が自首しようと警察に行くと、そこは完全なマニュアル組織になっており、マニュアルに沿っていろんな手続きをしたらいまわしにされてなかなか自首できないという話。
私はこれが一番のお気に入り。
マニュアル社会を強烈に皮肉っていて笑えます。
自分が殺したのに犯行時のアリバイを訊かれてもそりゃ困りますって。
明らかに不自然なのにマニュアルに従って真面目くさって的外れの質問を繰り返す警察官がなんともおかしい。


ホームアローンじいさん」
家族の留守中にアダルトビデオを見ようと奮闘するじいさんのお話。
ビデオを見ようとするも、機械音痴のために悪戦苦闘するおじいさんの必死さが笑えます。
…そんなに見たいもんなんですかねぇ??


「花婿人形」
超マザコン男の結婚式の話。
う〜む、マザコン男よりも母親の方がやっかいだなぁ、こういうのは…。
ある意味なんとも哀れな花婿さんです。


「女流作家」
妊娠・出産を機に人前に出てこなくなった女流作家の話。
「なぜ彼女は姿を現さなくなったのか?」という謎解きが主になっているのでこれはミステリですね。
でもバカミスに近い…かな?
お笑い度は低いです。


「殺意取扱説明書」
殺意の使用方法についての難解で複雑な取扱説明書があった…というお話。
殺意を手に入れてもそれを実際に使う(殺人を犯す)までに難しいプロセスが必要なら世の中の殺人事件の件数も少しは減るかもしれません。
取説の難解さとわけのわからなさを皮肉った作品…なのでしょうか。
でも日本の電化製品の取説ってかなり親切だと思いますよ。
アメリカのなんか、訴訟対策だかなんだか知りませんが、書く必要もない当り前のことが延々と書いてあって読みにくいことこの上ないですから。


「つぐない」
それまで音楽になど何の興味も持っていなかったのに、ある日突然ピアノを習いたいと言い出した中年サラリーマンのお話。
男がなぜピアノを習いだしたのか、その理由がなかなか泣かせます。
お笑い度は低めですが非常に読後感がよかったです。


「栄光の証言」
無口で目立たない男がある殺人事件の目撃者となるお話。
これもミステリっぽいですね。
人と話すのが苦手な男が、殺人事件を目撃したことを得意になってあちこちに触れ回る姿がおかしいです。


「本格推理関連グッズ鑑定ショー」
ある老人が遺産として息子に残したものは、なんとある殺人事件にゆかりのある品物だったという話。
某鑑定番組を髣髴とさせるマニアックなテレビ番組が面白いです。
そしてこの作品もまた少々バカミスっぽい?


「誘拐電話網」
誘拐犯から親の代わりに身代金を払えと言われた男が、他の見知らぬ他人にさらにその身代金を肩代わりさせようとするお話。
「身代金を払え」と脅されているのに冷静に(?)別の他人に責任転嫁する男の緊迫感のなさがおかしいです。
オチもうまいですね。