tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『怪笑小説』東野圭吾

怪笑小説 (集英社文庫)

怪笑小説 (集英社文庫)


年金暮らしの老女が芸能人の“おっかけ”にハマり、乏しい財産を使い果たしていく「おつかけバアさん」、“タヌキには超能力がある、UFOの正体は文福茶釜である”という説に命を賭ける男の「超たぬき理論」、周りの人間たちが人間以外の動物に見えてしまう中学生の悲劇「動物家族」…etc.ちょっとブラックで、怖くて、なんともおかしい人間たち!多彩な味つけの傑作短篇集。

東野圭吾さんのちょっとブラックで皮肉たっぷりなユーモア短編集です。
白夜行』や『容疑者Xの献身』など、長編ミステリと全く同じ淡々とした文章で大真面目に馬鹿馬鹿しいことを書いているのがなんともおかしくて笑えました。
さすがは大阪人といったところでしょうか。
ですがちょっと毒が多く含まれていたり、グロテスクなものもあるので、読者によって好みは分かれそうです。
私も好きな作品とあまり好きではない作品とがあったのですが、全体として見れば東野さんの新たな側面が見られてよかったです。
あとがきにも東野さんの「素」が表れていて非常に楽しめました。
続けて『毒笑小説』を読みます!
☆4つ。
以下、各作品ごとに簡単な感想を添えておきます。


「鬱積電車」
満員電車の乗客たちが心の中で考えているいろいろなことをそれぞれの人物の立場から書いています。
満員電車が好きと言う人はあまりいないと思いますが、こうやって乗客の誰が何を考えているかを想像してみるのは楽しいかもしれません。
この作品は終わり方が非常にうまい。
この後どうなったんだろう…と想像してみるのがまた楽しいです。


「おっかけバアさん」
質素で地味な年金暮らしの女性がある歌手のおっかけにのめりこんでいく様子を描いた話です。
歌手のおっかけのためにあらゆるものをつぎ込んでいくパワーがすごい。
でもこんな中高年の女性、実際にいそうですね。
ラストシーンを想像するとちょっと怖いです。


「一徹おやじ」
某スポ根熱血野球漫画を髣髴とさせる、スポ根おやじとその息子の野球人生の物語。
この作品は作品本編以上にあとがきが面白かったです。
なるほど…東野さんはあの漫画をお好きだったのですね。
これも終わり方がうまいと思います。


「逆転同窓会」
社会の第一線で活躍する元教え子たちの話に全くついていけない教師たちの常識知らず振りを痛烈に皮肉った話。
この作品に関しては言いたいことがあるのですが、長くなりそうですし本の感想からも外れるのでこの後の別エントリで。
生徒の同窓会に先生が呼ばれるのではなく、先生の同窓会に生徒が呼ばれるという逆転の発想は面白いと思いました。


「超たぬき理論」
全てのUFOの正体はたぬきである、というトンデモ論を大真面目に論じるお話。
これはとにかく笑えました。
馬鹿馬鹿しいのに妙な説得力があるのがまたおかしい。
私はこの作品が一番好きです。


「無人島大相撲中継
過去の大相撲の取り組みを全て覚えていて、それをラジオのように実況することのできる男の話。
よく野球漫画で出てくる、これまでの対戦ピッチャーの球種やコースを全て覚えている超頭脳を持った選手を連想しました。
実況が読んでいるだけでも面白かったので、実際に耳で聞いたらまた違う臨場感がありそうです。
けれどもその男の実況を聞くものたちの欲深さと自分勝手さがなんとも滑稽で悲しいです。


「しかばね台分譲住宅」
ある住宅地である朝他殺体が発見され、風評被害で自宅の価格が下がることを恐れた住民たちが近くの別の住宅地にその死体を捨てに行くという、ちょっとブラックなお話。
これは…ちょっとブラックで気持ち悪かったです…。
お互いに死体を押し付けあう2つの分譲住宅地の住民たちの必死さがおかしいです。


「あるジーサンに線香を」
ある医者が開発した若返りの手術を受けて本当に若返っていく孤独な老人の話。
これは笑えるというよりもかなり切なかったです。
誰もが老いよりも若さを望むでしょうが、結局どんな人間も最後は老いていく以外に道はないのですね…。


「動物家族」
自分や自分の周りの人間が動物に見える中学生の男の子のお話。
中学生の家族の崩壊っぷりが凄まじいですね。
というかこの中学生に対する家族たちの仕打ちはある意味虐待では…?
これもラストが少し悲しいです。