tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『レナード現象には理由がある』川原泉

レナード現象には理由がある (ジェッツコミックス)

レナード現象には理由がある (ジェッツコミックス)


恋にもいろんなカタチがある――カーラ教授流の「ちょっぴり変わった」4つの恋のお話が待望の単行本化! ほのかな恋を育てる主人公たちに、カーラ教授の絶妙なツッコミが痛快!

カーラ教授こと川原泉さんの新刊!
発売されること全然知らなくって、たまたま書店で平積みになっているのを発見して狂喜乱舞(?)して即買い。
川原泉さんの漫画、大好きなんですがコミックス既刊分はほぼ全部読み尽くしてしまっていて、新作をずっと待っていたのです。
表紙も可愛いし(なのにAmazonにまだ画像がない…)、タイトルもいかにもカーラ教授っぽいし、肝心の漫画のほうも、ちょっと絵柄は昔と変わったけど(特に男の子の顔が…昔の絵柄の方が好きだなぁ)川原節全開で、もううれしくって涙が出そうでした(大げさ)


川原さんは新刊も久々ですが、恋愛モノもかなり久々ですね。
この作品には4つの短編が収められていますが、4編とも舞台は同じ、私立彰英高校。
全国有数の超進学校で、さらに文武両道で部活も盛んという、非常に優秀なエリートたちの通う高校を舞台に繰り広げられる、ちょっとヘンな恋愛模様を描いた連作短編集です。
表題作「レナード現象には理由(わけ)がある」は、成績は芳しくない庶民だけど呑気な楽天家で、手を触れるだけで人の心や身体の不調を癒すという特技を持つ少女と、一度教科書に目を通すだけで勉強しなくても100点連発という天才的頭脳の持ち主で、運動神経抜群でルックスも文句なし、父は大病院の経営者でお金持ち…という誰もがうらやむスーパー高校生でありながら、「お前は他人の痛みが分からないから医者には向いていない」と言われてしまうほど他人への思いやりに欠ける少年のお話。
「ドングリにもほどがある」は、ペットのリスのえさのために木の実拾いに興じる少女につきあううち、スランプから脱出する天才現役高校生覆面作家のお話。
これら2作品は、男の子の方は類まれなる才能に恵まれていて、女の子の方は凡人だけどお気楽で前向きで真面目な頑張りやさん、という初期の川原漫画によくあるパターンのカップルを描いています。
「ラブラブ」とか「いちゃいちゃ」などの言葉とはとんと縁がなさそう…というか全く似合いそうもない、色気に欠けるカップルというのはやっぱり少女漫画の世界では異色の存在ではないでしょうか。
そして、残りの2作品「あの子の背中に羽がある」と「真面目な人には裏がある」は、なんと性的マイノリティの恋愛を描いています。
「あの子〜」は「高校3年生男子」が隣の家に引っ越してきた「小学6年生女子」に一目惚れをしてしまうというお話です。
「真面目な〜」は、主人公の女子高生の「兄」がある日家に連れて帰ってきた「恋人」は、なんと「男」だった!というお話。
どちらの作品にも共通して登場するのが「変態」という言葉。
確かに、世間一般から見たらちょっとアブノーマルな恋愛…かもしれない。
ところがカーラ教授は世間的には「変態」と言われてしまう類の恋愛にも懐が深い。

理解せよ
得心せよ


変態は自分のことしか考えない


まず先に相手の事を考えられる人は絶対に変態とは言わないんだ


この両者の間には百万光年以上の隔たりがあるってことを


理解せよ
得心せよ

この言葉に不覚にも感動(笑)
彼らは「少数派」なだけで、決して「変態」ではない、と思わず納得。
何より、どちらのカップルも可愛らしくてさわやかで、とても好感が持てるのです。
…っていうか高3と小6って、年の差にすると18−12で…6歳?
なんだ全然普通やん(笑)
今時ひとまわり以上の年の差があるカップルだって珍しくもなんともないよ。
同性愛だって、堂々とカミングアウトしているタレントもいるし、この漫画内でもネタにされているようにBL*1市場はいまや大盛況だし…ねぇ。
マイノリティであることには変わりがないのでしょうけど。
先に出てきた非凡な才能を持つが色恋沙汰に興味なさそうな少年たちも、ある意味マイノリティ。
この際全員ひっくるめて、「恋愛マイノリティ」とでも呼んじゃいましょう。
この連作短編集は、マイノリティたちの恋愛をほのぼのと明るくノーテンキに描いた作品なのです。


もちろん学術的用語が連発され、テレビゲームやファンタジー世界などの小ネタも満載の川原ワールドも健在。
昔からのカーラ教授のファンの方はもちろん、フツーの恋愛漫画には飽き飽きしている方にも、少女漫画は苦手だという男性の方にも、「自分はマイノリティだ」という方にも、「レナード現象って何?」と思った方にも(笑)、ぜひぜひおすすめしたい漫画です。
中に挟まれていたチラシによると、どうやらまだ続編がある様子…うわぁ、楽しみだなぁ♪

*1:BLを「Business Logistics(物流管理)の略?」と主人公に言わせるカーラ教授のセンスには爆笑しました