tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ブレイブ・ストーリー』宮部みゆき

ブレイブ・ストーリー (上) (角川文庫)

ブレイブ・ストーリー (上) (角川文庫)


ブレイブ・ストーリー (中) (角川文庫) ブレイブ・ストーリー (下) (角川文庫)


僕は運命を変えてみせる―。勇気と感動の冒険ファンタジー、ついに文庫化
東京下町の団地に住む小学5年の亘は、テレビゲームが好きな普通の男の子。そのワタルの身に降りかかった思いがけない家族の不和。この運命を変えることはできるのか?

大好きな宮部さんの作品ですが、宮部さんの描く現代ミステリの世界が好きな私は、この作品がファンタジーという分野であることに少し不安も持っていました。
宮部さんの持ち味は、やはり犯罪などの世の中の悪や不条理に苦しめられる弱者に対する優しい眼差しだと思うから。
ですが、この作品もジャンルは違えどそこに展開されていたのはやはり紛れもないいつもの宮部ワールドでした。


あらすじだけ読めばこの作品は現実の世界からもう一つの世界へ行って冒険の旅をするという、いわばありがちなファンタジーなのですが、そのような他の作品と大きく異なるのはもう一つの世界である幻界(ヴィジョン)だけではなく、現実の世界である現世(うつしよ)にもかなりのページを割いて非常に丁寧に、細やかに描写されていることでしょう。
ですから最初はほとんど現代ものとして読むことができます。
何の変哲もない平均的小学生だった亘(わたる)に突然降りかかった両親の離婚騒動。
父が家を出て行き、父の愛人が現れて母と対立し、そして母は亘を道連れにガス自殺を図る…という衝撃的な展開。
それらの出来事により傷ついていく亘の心が、上巻の大半を使って丁寧に描写されます。
このあたりは宮部さんの筆力の見せ所。
いつの間にか読者は亘にすっかり感情移入していることでしょう。
そして傷ついた亘は自らの運命を変えるため、勇者ワタルとして幻界へ旅立ち、願い事を一つだけ叶えてくれる女神のすむ運命の塔を目指す冒険を始めます。
ここからは一気にファンタジーの世界に突入しますが、幻界は現世の人間たちの想像力が作り上げた世界。
ですから、どこか現実の世界と似通っているのです。
幻界は北の帝国と南の連合国とに分かれています。
自由で平和な南の連合国に比べ、北の帝国では皇帝による独裁政治が敷かれ、徹底的な差別主義により虐げられているヒトたちが貧困と飢餓と国による虐待に苦しんでいる―ね、どこかで聞いたような話でしょう?
だからこそ、普段ファンタジーになじみの少ない人でも割とすんなり幻界の世界観を理解することができるのではないでしょうか。
「テレビゲーム大好き」な宮部さんのことですから、確かにゲーム的なところも多く、ダンジョンに潜って、宝玉を探し求めて、共に戦ってくれる仲間と出逢い、別れ、ボスキャラと戦って…とまさにRPGそのものの展開で冒険の旅が繰り広げられます。
それだけにドラクエやFFでRPGに親しんでいる日本人には、「ロード・オブ・ザ・リング」や「ナルニア国物語」などのガチガチの本格ファンタジーよりもはるかになじみやすいファンタジーに仕上がっています。
でもだからと言って子どもだましの安っぽい話というわけでもありません。
人間の持つ善悪両面を見つめ、自分の中の醜く汚い部分と対峙し、正義とは何かを考え…。
そして、最初は頼りない弱虫の勇者見習いだったワタルが真の勇者に成長した時、女神に願うたった一つの叶えたい望みとは…。
ファンタジーの世界を借りて、1人の少年の成長と「人間にとって大切なこと」が見事に描かれています。


下巻後半からはもう涙なしには読めませんでした。
ご都合主義的な安易なハッピーエンドにならなかったのがいいですね。
感動的でさわやかなラストシーンで、読後感は最高です。
まさに大作RPGを一本クリアした時のような充実感と爽快感、そして、冒険が終わってしまったという少しのさみしさを味わうことができました。
期待以上の秀作で☆5つ。
映画「ブレイブストーリー」にはあまり興味がなかったのですが、本を読み終わったら断然映画も観たくなっちゃった(笑)
ちょうどいいタイミングでテレビでCMも見ました。
私はキャラクターの中ではカッツが一番好きなんですが、カッツの声は常盤貴子さんがあてるんですね〜。
他にも豪華なキャストを揃えているようで、なかなかの大作のようです。
1000ページ以上もある原作を2時間にどう凝縮するのか不安でもありますが、機会があれば観てみたいと思います。

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