tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ZOO 1』乙一

ZOO 1 (集英社文庫)

ZOO 1 (集英社文庫)


ジャンル分け不能、天才・乙一の傑作短編集。
双子の姉妹なのになぜか姉のヨーコだけが母から虐待され…「カザリとヨーコ」など。話題の短編集を2冊にわけて文庫化。「1」には映画化された5編をセレクト。漫画家・古屋兎丸氏との対談も収録。

乙一さんの『ZOO』が文庫化されましたがなぜか2冊に分けて刊行されたので、理由が分からないながらも私の感想文も2つに分けてみます(笑)


こちら「1」は単行本の『ZOO』の中から映画化された5編を収録しているのですね。
映画は観ていないんですが、どうだったんでしょう…乙一ワールドを映像化するのは難しそうな気がするけどなぁ。
で、「1」に収録の5編を読んだ感想はというと、やっぱり相変わらず独特の世界を創り出しているなぁという感じ。
上の紹介文に「ジャンル分け不能」と書かれていますが、本当にその通り。
ホラーっぽくもあり、ミステリっぽくもあり、SFっぽくもあり…そして、ちょっと切ない。
特に私が好きなのは「陽だまりの詩」。
これはロボットの少女とその製作者の話で、これだけだとなんだかありがちな感じですが、この2人以外の人間は病気で皆死んでいった後の荒廃した世界という設定や、ロボットの少女が徐々に人間らしくなっていく過程と心の動きが上手く描けていて泣かせます。
ラストもきれいに決まっていますね。
それから、「SO-far そ・ふぁー」。
ある日、父と母がお互いの存在を認識できなくなるが、その息子にはどちらの姿も見えるし話もできるし触れ合える…というちょっと不思議なお話。
これもラストの少し切ないオチが好きです。
あと、好き…とは言いづらいけれど強烈な印象を残したのが「SEVEN ROOMS」。
とにかく鳥肌が立つほど怖かったです。
これもラストはとても切ないのですが、その一方で「やったね!」という爽快感もあり、不思議な余韻の残る結末でした。
これらの作品に共通する切なさの正体は何かな…と考えてみると、それは「孤独感」ではないかと思います。
「1」に収録されている5編全てにおいて、「孤独感」が一つの物語のポイントになっているような気がします。


ただ、惜しむらくはどの作品もいまいちパンチ力が足りないかな…。
これまで私が読んだ乙一作品にはどれもガツンとやられた感があったのですが、今回はそれがありませんでした。
確かに雰囲気作りが非常に上手くて、怖いけど…悲しいけど…切ないけど…でも何かが足りない。
ちょっと消化不良気味です。
う〜ん、いい雰囲気持ってるだけにもったいない。
「1」は☆4つですね。
さて「2」はどうでしょうか…。