『悪意』東野圭吾

悪意 (講談社文庫)

犯人が決して語らぬ動機加賀刑事の推理は！？
誰が？なぜ殺したのか！？超一流の「フー＆ホワイダニット」
人気作家・日高邦彦が仕事場で殺された。第一発見者は、妻の理恵と被害者の幼なじみである野々口修。犯行現場に赴いた刑事・加賀恭一郎の推理、逮捕された犯人が決して語らない動機とは。人はなぜ、人を殺すのか。超一流のフー＆ホワイダニットによってミステリの本質を深く掘り下げた東野文学の最高峰。

東野さんの作品は読むたびに技巧派だなぁと感心させられます。
この作品も例に漏れず。
本当に巧いですね。

上記の紹介文には「フーダニット」(誰がやったのか？)でもあるように書かれていますが、犯人はすぐに明らかになります。
この作品の肝は「ホワイダニット」(なぜやったのか？)、つまり殺人の動機にあるのです。
犯人当て小説やトリックの解明を中心とした小説はたくさんあります。
けれどもここまで動機に焦点をあて、それがきっちり本格ミステリとして読者をうならせる出来に仕上がっている作品はそうそうないのではないでしょうか。
感情を抑えた簡潔な文章で、少しずつ明かされていく真実の裏に垣間見える「悪意」の恐ろしさに、思わず背筋が凍るような感覚を味わいました。
この「感情を抑えた簡潔な文章」は東野さんの武器だなぁと思います。
余計な脱線をすることもなく、ただ淡々と必要なことのみを必要な時にだけ読者に提示するその語り口だからこそ、殺人事件の動機の裏にある「悪意」の恐ろしさが際立つのでしょう。
地震や台風など、地球上には怖い天災がいろいろありますが、本当に一番怖いのはやっぱり人間だな…と思ってしまいました。

また、この作品は「加賀恭一郎」シリーズの中の1編でもあります。
加賀ファンの一人としては加賀の推理がたっぷり楽しめる作品としてもうれしいですね。
今回は加賀が中学校の教師を辞めて警察官に転職した、そのきっかけとなるある事件についても明かされています。
なるほど…これは確かに、教師としてやっていく自信を失ってしまっても仕方ないでしょうね…。
つらかったんだね、加賀さん。
なんて声をかけてあげたくなってしまいました(笑)
☆4つ。