tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『恋文』連城三紀彦

恋文 (新潮文庫)

恋文 (新潮文庫)


マニキュアで窓ガラスに描いた花吹雪を残し、夜明けに下駄音を響かせアイツは部屋を出ていった。結婚10年目にして夫に家出された歳上でしっかり者の妻の戸惑い。しかしそれを機会に、彼女には初めて心を許せる女友達が出来たが…。表題作をはじめ、都会に暮す男女の人生の機微を様々な風景のなかに描く『紅き唇』『十三年目の子守歌』『ピエロ』『私の叔父さん』の5編。直木賞受賞。

うまい!
うまいですね、この作品。
あらゆる意味で。


まず、文章がうまい。
情感たっぷりで、とても繊細な、美しい言葉が連なっていて、思わず音読したくなるくらいです。
そして、このうまい文章で綴られる5つの恋の物語のストーリー展開がこれまたうまい。
連城さんはもともとミステリ作家なので、恋愛をテーマにした短編集でありながら、全てにミステリの手法が取り入れられています。
ラストに思わぬ真相が明らかになったり、物語中の謎が解き明かされたり。
「十三年目の子守唄」のラストが特に好きです。
そうだったのか!と思わされると同時に感動させられました。
恋愛小説が苦手でもミステリが好きな人なら、ミステリ感覚で楽しめる作品だと思います。
どの話も少々古い感じはするのですが、それがかえって現代のライトな恋愛小説にはないゆったりとした空気感と、胸を刺すような痛みと切なさを呼び覚ましてくれます。
解説の中で(ちなみに解説には少々ネタばれが混じっているので本編より先には読まないように)フォークソングの歌詞が引用されていますが(「若かったあの頃 何も怖くなかった ただあなたのやさしさが怖かった」)、まさにフォークソングの少し物悲しく叙情的なメロディと歌詞が似合う作品です。
表題作「恋文」や最後の「私の叔父さん」は、あまりの切なさに涙さえ出てきました。
こんなに切ない恋愛小説を読んだのは久し振りです。
いいもの読ませてもらいました。
☆5つ。


この作品、ドラマ化されたことがあるんですね。
全然知りませんでした…。
連城さんの日本推理作家協会賞受賞作である『戻り川心中』も読んでみようっと。