tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『噂』荻原浩

噂 (新潮文庫)

噂 (新潮文庫)


レインマンが出没して、女のコの足首を切っちゃうんだ。でもね、ミリエルをつけてると狙われないんだって」。香水の新ブランドを売り出すため、渋谷でモニターの女子高生がスカウトされた。口コミを利用し、噂を広めるのが狙いだった。販売戦略どおり、噂は都市伝説化し、香水は大ヒットするが、やがて噂は現実となり、足首のない少女の遺体が発見された。衝撃の結末を迎えるサイコ・サスペンス。

映画化される『明日の記憶』で話題の荻原浩さんの本を初めて読んでみました。
荻原さんの本を読んでみたいな〜と書店で品定めしていて、目に付いたのがこの『噂』の帯に書かれた、「衝撃のラスト1行に瞠目!」という惹き句。
おお、いいね、こういうの大好き。
あんまり大げさなキャッチがつけられているのって、実際に読むと期待はずれでがっかりすることも多いけど…と思いもしましたが、ミステリ好きの血が騒ぐのには勝てず(?)買ってみました。


レインマンという女の子の足首を切る変質者が出没しているが、ミリエルという香水をつけていれば狙われない」という都市伝説めいた噂が流れる。
それは実は女子高生の口コミを利用した販売戦略のため、ある企画会社が流した噂だった。
ところがその噂どおりに足首を切断された少女の他殺体が発見されて…というお話。
レインマンの正体をめぐる、比較的オーソドックスなタイプのミステリです。
謎解きはそれほど難しいほうではなく、というよりけっこうあからさまなヒントがいくつか出て来るので、犯人は途中でなんとなく分かってしまいます。
でも、文章の読みやすさと、登場人物の会話の軽妙な面白さで非常に楽しく読めました。
特にレインマンの正体を追う小暮という刑事がいいですね。
妻を交通事故で亡くして以来、高校生の一人娘と暮らしているのですが、娘のそばにいてやれない罪悪感と辛さから、刑事としての出世競争を降りて制服組に戻ろうとしている、その姿が切なくて泣かせます。
今時の女子高生の流行や感覚についていけない中年オヤジっぷりも、ステレオタイプではありますがなかなか笑えます。
この事件でコンビを組むことになる名島刑事をはじめとするほかの刑事たちとの会話や、娘の菜摘との会話や、事件の捜査で知り合った渋谷の街の少女たちとの会話は小気味よくてユーモアたっぷり。
この辺りが荻原浩さんの持ち味なんでしょうね、たぶん。
でもこの作品の場合、注目すべきはやっぱり最後の1行。
…確かにね、確かにものすごい破壊力を持った衝撃の1行なんです。
でも…、私は「騙された快感」よりも、このラスト1行が示唆する真相に対する嫌悪感の方が先に来ちゃった。
確かに、後頭部をいきなりガツンとやられたような衝撃の1行で、全く想像していなかったからびっくりしたのは確かなんですが、ちょっとこれは…後味悪すぎでしょう。
この最後の1行まではとても面白くいい気分で読んでいただけに、『容疑者Xの献身』(東野圭吾)とか『十角館の殺人』(綾辻行人)とかで感じた、見事に騙された!という悔しさ交じりの快感が、この作品のラスト1行からは感じられなかったのがとても残念です。
読者を騙すにもいろんなやり方があるとは思いますが、ちょっとこのやり方は悪趣味だと思いました。
そこさえ除けばあとはほとんど言うことなしなので、非常に惜しい。
☆4つ。