tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『桜宵』北森鴻

桜宵 (講談社文庫)

桜宵 (講談社文庫)


バーのマスター工藤が4つの難事件に挑む!東京・三軒茶屋の路地裏にひっそりと佇むバー「香菜里屋」。そのマスター・工藤が探偵役となって、バーに集う人々をめぐる4つの事件を解決していく連作短編集。

前作『花の下にて春死なむ』を読んだのはちょうど2年前のこの時期でした。
そのときにビアバー「香菜里屋」のおいしそうなビールと料理の数々、粋なマスター・工藤と彼の鮮やかな謎解きの妙にすっかり魅せられ、続編の『桜宵』の文庫化を待っていました。
おなかを空かせて(笑)読み始めたこの作品、やっぱりとっても美味しそう!
工藤が客たちに供する数々の創作料理はどれも個性的でありながら実に美味しそうなのです。
特に「春キャベツのアンチョビソースパスタ」と「松茸の土瓶蒸し春巻」をぜひ食べてみたい!!
今回はビールだけでなくカクテルや日本酒も登場し、お酒好きにもたまらない(笑)
工藤の粋な気配り具合にも、思わずため息が出ます。
嗚呼…こんなビアバーに行きたい…。


でも、もちろんこの作品は美味しそうなお酒と料理だけではありませんよ。
謎解きの方も十二分に楽しませてくれます。
今回は前作よりも切なくほろりとさせる作品が多いと感じました。
全ての作品において、少しほろ苦い男と女の関係が中心に据えられています。
やはり舞台がビアバーなだけに、そこで語られる謎の話もお酒の似合うおとなの話ばかり。
私のお気に入りは表題作の「桜宵」。
薄緑色の花を咲かせる珍しい桜・御衣黄(ぎょいこう)の下で、1年に一度出逢う男女のお話です。
桜の持つ切なく儚いイメージにぴったりな雰囲気がよいですね。
他、ラストの「約束」はあるお店で10年後に再会しようと約束して別れた男女が約束どおりに再会を果たすお話。
最初は久々に会った男女が積もり積もった思い出話に花を咲かせるという、ちょっとしんみりとしたいい話かと思いきや、話は徐々に背筋が寒くなるような方向へと展開されていきます。
その意外性がいい感じ。
何気ない思い出話の裏に垣間見える、底知れない憎悪と悪意が印象的でした。


というわけで今作もおなかいっぱい、ごちそうさまでした。
早くも3作目『螢坂』の文庫化が楽しみです。
未読の方はぜひ1作目の『花の下にて春死なむ』からどうぞ。
あ、未成年の方はご遠慮くださいね(笑)
お酒の味も、男女関係の甘さも辛さも分かるおとなのためのミステリですから。
え、私?
…どっちもまだよく分かりません(汗)
☆5つ。