tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『虹を操る少年』東野圭吾

虹を操る少年 (講談社文庫)

虹を操る少年 (講談社文庫)


「光にメロディがあるの?」「あるさ。みんな、そのことに気づいていないだけさ」。“光”を“演奏”することでメッセージを発信する天才高校生・光瑠(みつる)。彼の「光楽」に、感応し集う若者たち。しかし、その力の大きさを知った大人たちの魔の手が忍び寄る。新次元コミュニケーションをめぐる傑作長編ミステリ。

東野圭吾さんも人並みはずれた大きな風呂敷を持つ作家の一人といいますか、なんともいろんな発想の小説を書く人ですね。
この作品は、光を自在に操って「光楽」という音楽を演奏し、若者たちの心を掴む天才少年が主人公。
光と音楽というのは相性がいいのか、コンサートやショーなどでも音楽に合わせて効果的にさまざまな色と輝きの光が用いられ、その場の雰囲気を盛り立てています。
「光楽」というのはその一歩先にあるというのでしょうか、光そのものをメロディとして奏で、それによって観るもの(聴く者)にメッセージをも伝えるのです。
光と音は容易に結びつくでしょうが、この「光楽」のような発想はなかなか普通の人は思いつかないのではないでしょうか。
本書の解説で井上夢人さんが東野さんの才能に嫉妬しておられますが、その気持ち、よく分かります。
発想の奇抜さに加えて、視覚と聴覚に訴える芸術であるはずの「光楽」を文章の力だけで伝えきってしまうその筆力の高さも、さすがだなぁと感心せずにはいられません。
でも…これってミステリ?
ちょっとミステリとは言い難いような。
SFともファンタジーともサスペンスとも言い難いですね。
不思議な小説です。
東野さんが若者たちに「立ち上がれ」と呼びかける声が聞こえてくるような、そんな小説。
ちょっと最後は中途半端な印象もありますが、大抵この手の天才少年の行く末というのはそれほど幸福ではないものなので、悲しい結末にならず、希望を持たせる終わり方になっていることで、若い読者に勇気を与える作品になっているのではないでしょうか。
☆4つ。


ところで、私、この作品未読だと思って買ってきたんですけど、読んでみたらなんとなく読んだことあるような…(^_^;)
光瑠の親が深夜の「ランニング」に出かける光瑠を尾行するシーンとか、ラストの若者たちが大勢同じ方向に向かって歩いていくシーンとか、ものすごく既視感(既読感?)があったのよねぇ…。
う〜む、間違いなく我が家の本棚にはこの本はなかったし、少なくともこうしてネット上で感想を書くようになってから(ここ3年くらい)は読んでないはずだ。
もしかして大昔に、東野さんの作品と意識せずに図書館ででも借りて読んでいたのでしょうかねぇ。
本をダブって買ってしまうとか既読であることを忘れてまた読んでしまうなんてこと、今まではなかったのに、もしやこれは、ろ、老化現象…!??
ヤバッ( ̄□ ̄;)!!