『陰の季節』横山秀夫

陰の季節 (文春文庫)

警察一家の要となる人事担当の二渡真治は、天下り先ポストに固執する大物OBの説得にあたる。にべもなく撥ねつけられた二渡が周囲を探るうち、ある未解決事件が浮かび上がってきた…。「まったく新しい警察小説の誕生!」と選考委員の激賞を浴びた第5回松本清張賞受賞作を表題作とするD県警シリーズ第1弾。

警察小説で定評のある横山さんの、警察組織の様子を詳しく描いた連作短編集です。
さすが、評判通り面白いですね。
普通のミステリ小説のように事件そのものを描くのではなく、刑事ではなく警察の管理部門で働く警察官の目を通して事件や警察組織の内部事情を浮かび上がらせる手法がうまいなぁと思います。
警察官というのも裏方はいろいろ大変ですねぇ…良くも悪くもサラリーマンっぽいと言うか。
しかしサラリーマンと決定的に違うのはやはり警察官は公僕であるという点で、「天下り」だの「再就職」だの、民間企業に勤める一般庶民としてはいろいろ腹の立つ話も出てきます(笑)
でも、「踊る大捜査線」が好きな人はけっこうこの作品も好きになれるのではないでしょうか。

作者は元新聞記者ということで、文章は読みやすいですがかなりかっちりした硬い文体です。
この文体と文章中の漢字の多さを見るととっつきにくそうな印象がありますが、ストーリーはどれもミステリ的どんでん返しと切ない結末で意外に万人向けです。
連作短編集なので、各話(全4話収録)に共通して登場する人物を追う楽しみもあります。
私個人としては最終話の「鞄」が好きです。
ラストがなんとも言えず悲しいですね。
警察官と言えども人の親…。
どの話もとても人間臭さの漂う話でした。
一つ一つの話は面白いのですが、どの話も展開がワンパターンでちょっと飽きてきてしまうのが残念。
☆4つ。