tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『日曜の夜は出たくない』倉知淳

日曜の夜は出たくない (創元推理文庫―現代日本推理小説)

日曜の夜は出たくない (創元推理文庫―現代日本推理小説)


今日も今日とて披露宴帰りに謎解きを始めた猫丸先輩。新聞記事につられて現地へ赴くこともあれば、あちらの海では船頭修業。絶妙のアドリブで舞台の急場を凌ぎ、こちらでは在野の研究家然とする。飲み屋で探偵指南をするやら、悩み相談に半畳を打つやら…天馬空を行く不羈なるおかたである。事ある所ないところ黒い上着を翻し、迷える仔羊の愁眉を開く、猫丸先輩ここにあり。

倉知淳さんの作品は『星降り山荘の殺人』がなかなか面白かったのですが、こちらはデビュー作。
しかも倉知さんの主要作品と言える「猫丸先輩シリーズ」の内の一作。
期待しながら読み始めました。
…が。
なんだかちょっと、期待はずれ…?
連作短編集形式で、個性的な探偵(=猫丸先輩)が登場するという、私の好きなタイプの作品なのに、どうも気分が乗ってこない。
なんでかな〜と思いながらもとりあえず表題作「日曜の夜は出たくない」まで読み終わって、おまけのページ(?)「誰にも解析できないであろうメッセージ」を読んだらびっくり。
なんと!
こんな仕掛けがあったなんて!!
さらなるおまけページ(?)「蛇足―あるいは真夜中の電話」を読んで二度びっくり。
いや、二度目は一度目よりさらに驚かされました。
一度目の「種明かし」は本文中で猫丸先輩も指摘しているとおり、ちょっとアンフェアですからね。
二度目の「種明かし」には素直に驚嘆しました。
どの短編もそれなりに考えられてはいるけど感心するほどのトリックじゃないな〜…とちょっと退屈に感じていたのに、最後の最後にこんな驚きの真相が待っているとは思いませんでした。
倉知さんってば、何食わぬ顔してこそこそと仕掛けをいくつも仕込んでいたのね。
おかげですっかり騙されましたよ。


でもねぇ…ファンの方には申し訳ないのですが、この猫丸先輩シリーズ、私にはあまり合わないかも。
どうにも作品の雰囲気が軽すぎるんですよね。
人が殺されてるというのにちょっと…軽薄にさえ感じてしまうほど軽い気がするんですよ。
倉知さんの作風が「ユーモアミステリ」と呼ばれ、その部分が評価されているのは理解しています。
でも私は少し受け入れがたいものを感じてしまいました。
確かに思わずクスリと笑ってしまうような場面もいくつかありましたが、殺人現場には笑いはいらないように思います。
被害者も殺されるためにだけ出て来た感が拭えなくて、殺されてもかわいそうという気が起こらないし、犯人を許せないという気も起こらないのです。
あまり重過ぎる雰囲気はどうかと思いますし、たかが娯楽推理小説と言われてしまえばそうなのかもしれませんが、人の命を軽く扱う態度はちょっといただけないなぁと…。
これでは本格ミステリに対する「人間が描けていない」というよくある批判にも反論できないような気がします。
あ、猫丸先輩は面白かったですけど。
でも神出鬼没すぎてちょっと怖かったです(笑)
…ということで採点は途中までは☆3つにしようかと思ってたけど、ラストのどんでん返しに敬意を表して☆4つ。
私と違って人の死に重いも軽いもないと割り切れて、ただ気楽に面白い推理小説が読みたいという人にはとてもよい作品だろうと思います。