tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『容疑者Xの献身』東野圭吾

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身


数学だけが生きがいだった男の純愛ミステリ
天才数学者でありながらさえない高校教師に甘んじる石神は愛した女を守るため完全犯罪を目論む。湯川は果たして真実に迫れるか

実はうちの弟が現在東野圭吾さんの母校で学生やってます(しかも学部も同じ)
卒業生から直木賞作家が出たということで、生協で大々的に「東野圭吾フェア」をやってるそうです。
なので、私もこの本は弟に頼んで「東野さんの母校」で買って来てもらいました。
…いや、あんまり意味ない気もするけど(^_^;)
でもほら、大学生協だと1割引で買えるからさ。
そういや私の母校からも数年前に芥川賞作家が出たのですが、そのときもやっぱり生協でフェアをやったのかしら??
でも東野フェアより作品数少なくてさみしそうだし、何よりあんまり売れなさそうだわ(酷)


さて、期待に胸を膨らませて読んだ本作。
…正直に告白します。
私は最初、このトリックのどこがすごいのか分かりませんでした。
「ん??」と思って、もう一度初めに戻って、少し読み返して、それでようやく「騙されてた!」と気付きました。
遅いっちゅうの。
っていうか、頭悪すぎです、私…(;_;)
作者は本当に読者に対してフェアです。
嘘は一つもついていないし、手がかりは全て文中に潜ませてあります。
それでもすっかりミスリーディングさせられてしまう私…。
○○○○○が怪しいって、途中ちゃんと目をつけてたところは正解だったのに!
なぜ肝心のところに思考が及ばないかなぁ…。
自分の馬鹿さ加減に嫌気が差すわ、東野さんが「してやったり」とニンマリする顔まで浮かんでくるわでもうめっちゃ悔しい!
ヒロインの靖子が私はどうしても好きになれなかったのですが、それすらも作者の計算づくだったような気がして悔しい〜!!
も〜う、悔しいけど持ってけ☆5つ!!


…と、これでは褒めてるんだか悔しがってるんだか分からないので、ちょっと真面目に褒めておきましょう。
「驚愕のトリック」だの「心揺さぶる純愛」だの「天才同士の対決」だの、惹き句には大げさな文句が並んでいますが、実際に読んでみるとものすごくシンプルな作品です。
無駄な描写など全くなく、とてもスムーズに物語が進んでいくので、普段あまり本を読まない人にも読みやすいでしょう。
なんと言ってもこの作品の一番のすごさはこの無駄のなさから生まれるシンプルな美しさです。
ミステリに恋愛や友情などの要素を絡ませた作品は星の数ほどあります。
けれどもその多くはそういった要素をサイドストーリー的に扱い、その結果少し作品内で分離した部分ができていたように思います。
けれどもこの作品では、トリック、恋愛、友情、数学…などの、作品に登場する全ての要素が、一本の直線で結びついているのです。
これほどまでに物語の全ての要素に一貫性がある作品は他にはあまりないと思います。
それは、『博士の愛した数式』で示された数や数式の美しさに通じるものがあると感じました。


正直なところ私はラストまで読んでも泣けませんでした(あまりにも「献身」の中身がすごすぎて、現実離れしている気がして…)
この作品が東野圭吾さんの最高傑作だとも思いません。
でも、よくぞこんな予想のはるか上を行くトリックと想像を絶する愛の形を考え出したと、東野さんに大きな拍手を送りたい気持ちです。
この作品に対して直木賞が与えられたことには賛否両論あるかもしれませんが、東野さんが本格ミステリでデビューして、これまで長年にわたりコツコツと本格ミステリを書いてきたことを思えば、『容疑者Xの献身』での直木賞受賞は何よりもその功績に報いるものであり、ミステリ界全体に対しても大いに希望を与えたと思います。
これからも東野さんには本格ミステリを書き続けていって欲しいです。