tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『リトル・バイ・リトル』島本理生

リトル・バイ・リトル (講談社文庫)

リトル・バイ・リトル (講談社文庫)


少しずつ、少しずつ、歩いていこう。楽しいことも悲しいことも、みんな大切な家族の時間とひらかれてゆく青春の息吹。高校生作家の芥川賞候補作。

とても淡々としたお話です。
主人公も、その周りの人物も、その辺にたくさんいそうなごく普通の人たちばかり。
特に何か大きな出来事が起こるでもなく、ただ淡々と過ぎてゆく日常生活を切り取ったような物語。
静かで、少しさみしげで、飾り気のない文体と作品の雰囲気は、少し吉本ばななさんの作品に似ているとも思いました。


主人公の「ふみ」は、高校卒業後、進学するためのお金を稼ぐためにバイトに励んでいる。
家族は母と異父姉妹の「ユウちゃん」の2人。
失った「父」に対する幻想を抱きながらも、特に不満もない生活を送るふみは、母の働く整骨院の患者である「周」と出会い、ほのかな恋心を抱き始める…。
この周くんのキャラクターが絶妙です。
キックボクシングをやっていてちょっと悪そうなイメージがあるわりには、言葉遣いがとても丁寧で、育ちがよさそうで、やさしくて紳士的。
こんな19歳いるか?と突っ込みそうになってしまいますが、この作品の雰囲気にとてもあっていて、19歳離れしているのになんだか妙に自然な存在として描けているところがすごいと思います。
そんな周とふみの恋愛もとても自然体でさわやか。
間違ってもセカチューのような純愛映画やドラマにはなりそうもない、普通すぎる恋愛なのですが、それがとても心地よくて落ち着きます。
ベタベタしすぎるでもなく希薄すぎるわけでもない、二人の微妙な距離感がうまく描けていると思いました。
微妙な距離感、といったらこの作品に登場する人間関係はすべて微妙な距離感があるようにも思います。
ふみと母、実の父、2人目の父、周とその姉、ふみの習字の先生とその奥さん…。
この微妙な距離感があるからこそ、この作品は読んでいて心地いいのかもしれません。
深い関係を深く描くというのは、作品の雰囲気を重くしがちだから。


軽くさらりと読めて気持ちのいい小説ではありますが、淡々としすぎていてあまり印象には残りにくいかな…。
というわけで☆4つ。
島本理生さんは最新作の『ナラタージュ』が現在今年の本屋大賞にノミネートされていますね。
読書系サイトでも島本理生さんの作品はかなり評判がいいにもかかわらず、綿矢りささんや金原ひとみさんの陰に隠れてイマイチ目立たない島本さん。
本屋大賞は「全国書店員が選んだいちばん売りたい本」に与えられる賞であり、他のノミネート作品を見るとすでに十分有名で売れている作品が多いだけに、もしかするともしかするかも!?