tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『虹の家のアリス』加納朋子

虹の家のアリス (文春文庫)

虹の家のアリス (文春文庫)


育児サークルへの嫌がらせの犯人は? 連続殺猫事件の真相は?仁木探偵事務所に持ちこまれる様々な謎は、美少女安梨沙の助けで鮮やかに解決する。「アリス」と猫とティータイムを愛する名探偵登場。

『螺旋階段のアリス』の続編がついに文庫化。
待ってました〜♪
やっぱり加納さんの作品はいいですね。
悪人が出てこないというわけではないんですが、それ以上に「いい人」がたくさん出てくるので読後感のよさは抜群です。
ちょっと心が疲れているときでも安心して読めるのがいいですね。


前作『螺旋階段のアリス』は「夫婦」がテーマになっていました。
特に「最上階のアリス」が私にはとてもインパクトがあり、いまだに強い印象が残っているのですが、「こんな愛情の示し方もありなんだ!」という新鮮な驚きに満ちた夫婦のあり方を見せてくれました。
今回の『虹の家のアリス』では夫婦からもう少し範囲を広げて(?)「家族」がテーマになっていますが、加納さんは家族観も素敵ですね。
「鏡の家のアリス」の次の文には特に共感しました。

「俺さァ、思うんだけど。まあ生まれたての赤んぼは別としてさ、家族って背負うもんでも気負うもんでもないんじゃないか?ただ一緒にいたい人たち、離れててもいちばん近い人たち……それでいいんじゃないの?」
(p.263 18行目〜p.264 2行目)

家族というものを妙に構えて重く捉えるのではなくて、さらりと軽いんだけど、大切にしたい、愛おしいという気持ちははっきり伝わってきます。
考えてみれば加納さんの描く人間関係はみなそうなんですね。
ベタベタしすぎずさらりとしているんだけれど、冷たい印象は全くなくあたたかく確かな絆で結ばれている。
「駒ちゃんシリーズ」の駒子と大学の友人たち、瀬尾さんとの関係も、『月曜日の水玉模様』『レインレイン・ボウ』の陶子と祖母や母との関係も。
だから読んでいて心地いいのでしょうね。
押し付けがましくなく大切なことをさらりと語ってくれるから。
☆4つ。
最後にもう1箇所心に残った文を引用しておきますね。

「人間って、どうして相手に幻想を押しつけずにはいられないんでしょうね?美佐子さんは最初から最後まで、ずっと同じ美佐子さんだったのに」
(「幻の家のアリス」p.203 7〜9行目)