tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『天使の耳』東野圭吾

天使の耳 (講談社文庫)

天使の耳 (講談社文庫)


深夜の交差点で衝突事故が発生。
信号を無視したのはどちらの車か!?
死んだドライバーの妹が同乗していたが、少女は目が不自由だった。
しかし、彼女は交通警察官も経験したことがないような驚くべく方法で兄の正当性を証明した。
日常起こりうる交通事故がもたらす人々の運命の急転を活写した連作ミステリー。

読書の秋だというのになんだか気分が乗らず、読書が進んでいません。
こういうときはやっぱりなじみのある作家さんの読みやすい短編集が一番、と思って手に取った作品です。


東野圭吾さんって本当に器用な作家さんですよね。
どんな題材でもきちんと上手く料理してくれます。
この作品は「交通事故」という私たちの日常のすぐ隣にあるものが題材。
だから一つ一つの事件がとても身近なものに感じられ、自分自身を省みる材料にもなります。
なんと言っても「事件」ではない「事故」をきちんとミステリに仕立て上げているところがすごいですね。
捜査一課の刑事ではなく交通課の警官たちがこんなに活躍するミステリは他にはないのではないでしょうか。
本格ミステリと比べても遜色がないくらい、トリックやどんでん返しも鮮やか。
さすがは東野さんです。


でも、やっぱりこの作品は車を運転する人にぜひ読んでもらいたいですね。
ほんの小さな気の緩みや交通違反、マナーの悪さ…どこにでも当り前のようにあるものが、いつか取り返しのつかない結果を生むかもしれないということを、この作品は自動車教習所のどんな教本やビデオ教材よりも雄弁に教えてくれます。
私もペーパードライバー返上のため今少しずつ車に乗っていますが、今はまだ初心者だから注意深く安全運転を心がけているけど、慣れてきたらもしかしたら気が緩んだり交通違反を犯したりしてしまうかもしれません。
でもそれがとんでもない事故につながるかもしれないと思うと、ある程度慣れてこそ、より慎重に安全運転を心がけなければならないと思いました。
また、自分で運転するようになると、今まで以上にマナーの悪いドライバーの多さが目に付くようになりました。
この短編集では、運転を始めて1ヶ月にしかならない女性が後続の車にあおられてスピードを出しすぎ、カーブを曲がりきれずに事故を起こしてしまう「危険な若葉」、狭い道に駐車違反をしたために取り返しのつかない出来事を引き起こしてしまう「通りゃんせ」、高速道路上で前の車からポイ捨てされた空き缶が当たって片目の視力を失ってしまう女性を描いた「捨てないで」などの作品で、ドライバーのマナーの悪さが引き起こした悲劇が描かれています。
これらを読むと、正直車に乗るのが怖くなります。
実際私も後続の車にあおられたりクラクションを鳴らされたりしたことも何度かあります(ほぼ制限速度か、ちょっとオーバーするくらいで走ってるのに…)し、車の窓からのポイ捨てを目撃したことは何度もあります。
最近何かで「免許取得の際に、マナーや人柄も審査項目に入れて欲しい」という意見を目にしました。
私も全く同感です。
一人一人のマナーがもっとよくなれば、交通事故の件数もぐんと減って、誰でも運転しやすい車社会になるのではないでしょうか。
この本は現在のドライバーたちのマナーの悪さに警鐘を鳴らす本です。
ぜひとも教習所や警察署の待合室などにこの本を備え付けて欲しいくらいです。
☆4つ。