tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『黄泉がえり』梶尾真治

黄泉がえり (新潮文庫)

黄泉がえり (新潮文庫)


あの人にも黄泉がえってほしい―。
熊本で起きた不思議な現象。
老いも若きも、子供も大人も、死んだ当時そのままの姿で生き返る。
間違いなく本人なのだが、しかしどこか微妙に違和感が。
喜びながらも戸惑う家族、友人。
混乱する行政。
そして“黄泉がえった”当の本人もまた新たな悩みを抱え…。
彼らに安息の地はあるのか、迫るカウントダウン。
「泣けるリアルホラー」、一大巨編。

SMAPの草なぎ君主演の映画の原作本です。
「ホラー」と惹き句にはありますが、あまりホラーという感じではありません。
ファンタジーであり、SFでもあるという感じでしょうか。
亡くなった人たちが、愛する人々の元へあの世から還ってくる…そんなありえない出来事に直面した人々の戸惑いと混乱、そして何よりも喜びを描いた作品です。


大切な人を亡くした経験のある人なら誰でも、その人が生き返ってくれたら…と思ったことがあるのではないでしょうか。
でも、実際に「死者が生き返る」という現象があったとしたら、それは決していいことだとは言えないのではないかと思いました。
この作品中に、「どうせ死んでも生き返れるなら」と、自殺者が増えたり、仕事に空しさを感じてしまう医者が登場します。
命は蘇らない、人生は一度だけと、はっきり分かっているから私たちは今ここで一生懸命生きているのかもしれません。
もし、死んでもまた黄泉がえってやり直せるかもしれないとしたら…生死の価値観が変わってしまうことは避けられないでしょう。
また、作品の後半では、黄泉がえった人たちがある日を境にみんな消えてしまうということが明らかになります。
自分の最期がいつになるか分かったとしたら、その最期の日を、どこで、誰と、どのように過ごすのだろう。
以前新井素子さんの『ひとめあなたに…』という作品で、地球最後の日を迎えた人々の様子を読んだことがありますが、それと同じように、「死を迎える心構え」について考えさせられました。


「ホラー」とジャンル分けしてしまうにはあまりにもったいない、人の生と死を考えさせてくれる作品でした。
舞台が熊本ということで、熊本弁がいい味を出しています。
とても面白く読みましたが、ちょっと不可解な点もあったので(ネタばれになってしまうので詳細は省略します)☆マイナス1の☆4つで。