tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『PAY DAY!!!』山田詠美

PAY DAY!!! (新潮文庫)

PAY DAY!!! (新潮文庫)


ハーモニーとロビン、双子の兄と妹。
十七歳のちっぽけな対の二匹に訪れた、愛する人の死。
しかし、彼らは、十七年間分の人生を糧に、ここでまた新しい一日を始める。
ゆったりと美しいアメリカ南部を舞台にした青春小説。

久々に山田詠美さんの作品を読んだような気がしますが、やっぱり山田さんの青春小説はよい!と心の底から思えました。


黒人の父と、イタリア系の母の間に生まれた双子の兄妹・ハーモニーとロビン。
父母の離婚に伴い、ハーモニーは父と共に南部で、ロビンは母と共にニューヨークで、離れて暮らすようになります。
ところが2001年9月11日、崩れ去ったワールド・トレーディング・センターと共に母は行方不明になり、ロビンはニューヨークを離れて再び父と兄と共に暮らすことになります。
9/11(ナイン・イレブン)、人種問題など、アメリカならではの重いテーマを扱ってはいますが、ちっとも説教くさくならず、とてもさわやかに、ひとつの幸福な家族の肖像を描いているので非常に読みやすく、読後感のよい作品です。
恋をしたり、友情を深めたり、大切な人を失ったりする中で、「愛してる」ということの意味を知っていくハーモニーとロビン。
山田詠美さんは、些細なことに悩み立ち止まり、時には感情的にもなる未熟な二人のティーンエイジャーに、大人ぶった良識だとか道徳心だとかいった、くだらないものを押し付けたりはしません。

もがく今の自分に必要なのは、とロビンは考える。世界の行く末を憂える人々ではなく、私だけの手を引いて歩かせてくれる人だ。

この引用は、母を9/11で失って嘆き悲しむロビンの、人間として非常に自然な、素直な感情をよく表していると思います。
正義を振りかざしてもっともらしいことを言うばかりの政治家や評論家や学者ではなく、愛する人だけがテロの被害者や遺族を救うことができる。
今世界を悩ませているさまざまな問題の中には、「愛してる」という、ただそれだけの言葉があれば解決できる問題もたくさんあるのかもしれませんね。
そんな大切なことにさりげなく気付かせてくれるのが、山田作品のいいところです。
☆4つ。