tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ベルナのしっぽ』郡司ななえ

ベルナのしっぽ (角川文庫)

ベルナのしっぽ (角川文庫)


「郡司さん、ベルナです。黒のラブラドール種、メス、一歳六カ月、大型犬です」
…27歳で失明した著者は、子育てをするため、犬嫌いを克服して盲導犬とパートナーを組む決意をする。
訓練所でのベルナとの出会いには、とまどいを隠せなかったが、タバコの火をおしつけられてもほえもせず逃げずにじっと我慢するベルナとの間に、やがて強く確かな絆が結ばれていく。
しかし、家族の大事な一員となったベルナとも、やがて別れの時が…。
人間と犬という境を越えて育まれた感動の愛の物語。

不覚にも(?)『ベルナのしっぽ』は未読だった私。
ブックオフで100円で見つけたので買いました。


盲導犬クイールの一生』とは異なり、実際に使用者として盲導犬と共に生きた人がつづる盲導犬のお話です。
何冊盲導犬に関する本を読んでも、私はいつも決まって盲導犬のすごさ、素晴らしさを思い知らされます。
ベルナのしっぽ』の著者の郡司ななえさんは、最初は犬が大嫌いだったそうです。
それでも赤ちゃんが欲しい、そのためには自分の目となってくれる存在が必要だという一心でアイメイト協会へ出向き、ベルナと出会います。
初めてベルナと会ったときは、やはり怖くてたまらなかった郡司さんですが、忠実に郡司さんを導き、心無い人間の虐待にもめげず郡司さんに寄り添い続けるベルナに、強い信頼感を抱くようになり、さらにその信頼感は家族愛のようなものに変わっていきます。
犬嫌いの人にここまで深い愛情を抱かせる…このことこそが、盲導犬の持つもっとも大きな「力」だと思うのです。
ベルナは最期の瞬間まで郡司さんと共に過ごしました。
別れは辛く悲しいものであっても、ずっと助け合い愛情を注ぎ合いながら共に生きることができた郡司さんとベルナは、どちらもとても幸せで、恵まれていたのだろうと思います。
世の中には盲導犬を使いたいと考えていてもそれが叶わない人たちがまだまだたくさんいらっしゃるのですから。


犬好きならもちろん満足できる内容でしょうが、この作品は犬が苦手な人にこそ読んで欲しいと思います。
盲導犬は訓練の行き届いた優秀な犬であり、大事な使命を持って職務に就いている犬なのだということを理解し、いざ盲導犬と街で出会った時に、不必要に怖がったり意地悪をしたりせず、適切な行動を取れるように。
私たち一人一人の正しい理解が、盲導犬とその使用者にとって生きやすい社会を作るのですから。
☆5つ。