tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『空中庭園』角田光代

空中庭園 (文春文庫)

空中庭園 (文春文庫)


郊外のダンチで暮らす京橋家のモットーは「何ごともつつみかくさず」。
でも、本当はみんなが秘密をもっていて…。
ひとりひとりが閉ざす透明なドアから見た風景を描く連作家族小説。

う〜ん、角田光代さんの文体ってこんなだったのかぁ。
なんだか想像してたものと違ってました。
ダーっとこう、勢いのある文章を書く人なんですね。
いや、この書き方はわざとなのでしょうか?
どこにでもありそうなニュータウンの団地に住む4人家族と、少し離れた場所に住むおばあちゃんと、この家族の「秘密」に関わるある女性の6人それぞれの視点から、「秘密を持たない家族」の隠れた真の姿を浮かび上がらせる連作短編集なのですが、登場人物たちがみんな今時の若者風に語尾を延ばしつつ、テンション高めにまくし立てるようなしゃべり方をするんですね。
地の文がそのしゃべり方のままガーッと書いてるからちょっと…いやけっこう読みにくかったです。
まぁ勢いがあって現代的で面白いんですけどね。


さて、「家族」を描いたこの作品、なかなか怖かったです。
「何ごともつつみかくさず」両親の馴れ初めから息子の性の目覚めまで、すべてを食卓の蛍光灯の下にさらしてきたというこの家族の奇妙なあけっぴろげぶりがまず怖い。
そして、表面上は明るく仲のよい家族を演じながら、実は家族全員それぞれにお互いには言えない秘密を持って暮らしているという仮面家族ぶりが怖い。
たえずハイテンションで明るくしゃべり続け、家族の誰かの誕生日となると、ご馳走を作り、折り紙やティッシュの花で家の中を飾りつけ、盛大にお祝いをするといったやり方で、必死に「幸福で満たされた家庭」を演出しようとしているかのようなお母さんの異常さがまず目を引きましたが、表題作であり、お母さんの章である「空中庭園」を読んでその裏に隠されたお母さんの本当の思いにはなるほど…と思いました。
一見幸せそうな家庭には、ちょっとしたきっかけがあれば一瞬で崩壊してしまうような危険も潜んでいた。
そんな恐ろしさを、あっけらかんとした、いかにもどこにでもありふれているかのような調子で描き出しているところがまた怖いのです。
家族全員がそれぞれに与えられた役割を演じている姿は滑稽で愚かで馬鹿馬鹿しくも見えますが、人間関係ってそういうものなのかも、と思わされてしまうのも怖い。
とにかく怖い作品でした。
宮部みゆきさんの『R.P.G.』を思い起こさせる作品ですね。
☆3つ。