tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『図書室の海』恩田陸

図書室の海 (新潮文庫)

図書室の海 (新潮文庫)


ある地方に伝わる奇妙なゲーム。
秘密裏にゲームを引き継ぐ「サヨコ」のほかに、鍵を渡すだけのサヨコがいた…。
もうひとつの小夜子の物語「図書室の海」他、不思議な話、ぞっとする話、異色SF等、全10篇収録。

『夜のピクニック』で本屋大賞を受賞して以来乗りに乗っている(?)恩田陸さんの短編集です。
私がこの本を読んでいたら、母がそれを見て「あ、その本、なんとか大賞を受賞した人の本やろ?」と言いました。
やはり本屋大賞受賞の影響は大きいですね。


さて、恩田さんの作品というと私は「なんだか不思議な雰囲気で、何かが起こりそうなんだけど何も起こらなかったり、何か起こっても結局それが何なのかよく分からないまま話が終わってしまったりする、ちょっとヘンなんだけどなんだか妙に惹かれる雰囲気のある作品」という訳のわからない印象を持っています。
でもこうとしか言い表しようがないんだからしょうがないやん(笑)
そしてこの不思議な雰囲気はやっぱりこの本に収められている10の短編にも漂っていました。
1篇1篇を読むと、「えっ、これで終わり!?」というようなあっけない感じがするのですが、実はこの本に収められている短編のほとんどは恩田陸さんの他の長編作品とつながっているのですね。
長編作品の番外編であったり、予告編であったりと、壮大な物語のほんの一部をちょこっと見せてくれているという印象です。
実際「ピクニックの準備」を読んだら、「何?何?一体これから何が起こるの!?」と『夜のピクニック』を読みたくて仕方がなくなってしまいました。
う〜ん、恩田さん商売が上手いっ!(笑)
長編とつながっていなくてもそこはやっぱり恩田ワールド、ファンタジックでちょっぴりホラーでミステリーな物語が楽しめます。
私が一番気に入ったのは、動く城塞都市のお話「オデュッセイア」です。
いろいろ示唆に富んでいる作品で、長さは短いのになんだか壮大な広がりを持った世界観がよいです。
他、「茶色の小壜」や「国境の南」はドッキリさせるホラーで、よくできていると思いました。
表題作「図書室の海」も雰囲気がすごく好きですが、この作品は『六番目の小夜子』を読んでいないと何のことやらさっぱり分からないかも。


少々好みは分かれるかもしれませんが、短くてもしっかり恩田陸ワールドを楽しめる良作揃いです。
☆4つ。