tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『アーモンド入りチョコレートのワルツ』森絵都

アーモンド入りチョコレートのワルツ (角川文庫)

アーモンド入りチョコレートのワルツ (角川文庫)


十三・十四・十五歳。
きらめく季節は静かに訪れ、ふいに終わる。
シューマン、バッハ、サティ、三つのピアノ曲のやさしい調べにのせて、多感な少年と少女の二度と戻らない「あのころ」に語りかける珠玉の短編集。

『いつかパラソルの下で』で現在選考中の直木賞候補になっている森絵都さんの短編集です。
親戚同士の少年たちが別荘に集まってひと夏を過ごす「子供は眠る ロベルト・シューマン<子供の情景>より」、旧校舎の使われなくなった音楽室で出逢った少年少女の甘酸っぱい初恋物語である「彼女のアリア J・S・バッハ<ゴルドベルグ変奏曲>より」と、2人の少女とピアノ教室の先生とある日突然現れたフランス人のおじさんとの交流を描いた「アーモンド入りチョコレートのワルツ エリック・サティ<童話音楽の献立表>より」の3篇で、どれも中学生の少年少女が大人への階段を1段登った瞬間を描いています。


この本の解説で角田光代さんは「どうして私が中学生のときに、この作家に会えなかったのか!」と書いていらっしゃいますが、私はむしろ大人になってからこの本に出会えてよかったなぁと思いました。
中学生の私にはこの作品たちはまぶしくて照れくさくてまともに読めなかっただろうと思います。
大人になった今だからこそ、「若いっていいなぁ、中学生ってこんなにキラキラしてるんだなぁ」と素直に微笑ましく眺めることができるのです。
いやはや、子どもから大人へと成長していく瞬間ってこんなにきれいで、はかなくて、くすぐったいものだったのですね。
時に残酷に思えるほど容赦なく流れる時間の中で、花火のように花開いて消えていく少年少女時代の輝きを見事にとらえた作品です。
そしてまたサブタイトルともなっているクラシック音楽とこの輝きの相性が最高にいいのです。
私はそれほどクラシックを聴くほうではなく、シューマンは「トロイメライ」しか知らないし、バッハも有名どころしか知らないし、サティなんて「スーパーの名前?」と思ってしまった(すいません…)ほどですが、それでもこの本を読んでいるとクラシックを聴きたくなってくるから不思議です。
うん、ちょっといいもの見せてもらった気分。
☆4つです。