tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『GOTH 僕の章』乙一

GOTH 僕の章 (角川文庫)

GOTH 僕の章 (角川文庫)


世界に殺す者と殺される者がいるとしたら、自分は殺す側だと自覚する少年「僕」。
もっとも孤独な存在だった彼は、森野夜に出会い、変化していく。
彼は夜をどこに連れて行くのか?
「僕」に焦点をあてた3篇を収録。

ああ、「夜の章」の「夜」って、森野夜(登場人物)のことだったのですね…。
今頃気付きました(^_^;)


文庫化に当たって2冊に分冊されたうちの下巻です。
「夜の章」に引き続き、残酷なもの、「闇」や「死」に近いものを好む「僕」と森野夜という少女がさまざまな猟奇的な事件に関わっていきます。
リストカット事件」は、人形や人の手首から先を切り取って冷蔵庫に保存している高校教師の話。
ちょっとやっぱりこういうのは苦手かも…。
怖いというよりは気持ち悪い、という感じの話ですね。
「土」は、人間を土中に埋めることに固執する男の話。
こうやって書くとやっぱり不気味な話ですが、この犯人の男にはなぜだかあまり憎しみは感じませんでした。
ラストは切ないです。
そして最終話の「声」。
私は『GOTH』全編を通してこの話が一番好きかもしれません。
読み進めるうちにどんどん心の中で膨らんでくる不安…スプラッタホラーは苦手だけど、こういうタイプの心理的なホラーなら大丈夫みたいです。
そして、膨らみきった不安は最後にすとんと決まるオチによってスーッと消えていきます。
この話には本当に騙されました。
ネタとしては古今東西のミステリ小説で使い古されてきたのかもしれませんが、乙一さんならではのホラーや切なさと上手く絡めていい味を出していると思います。
ラストシーンでの森野夜と「僕」の会話もいいですね。


怖いものや不気味なものや残酷なものが苦手なのでどうかと思いましたが、初「黒乙一」はちょっと「うえっ」と思う部分もあったものの、読めないほどではないということが確認できました。
特にミステリ部分については十二分に楽しめましたので、他の「黒乙一」作品にも順次挑戦していきたいと思います。
『GOTH』全編を通しての星の数は5に近い4といったところでしょうか。
謎解きも人物造形も面白いけれど、やっぱり苦手な人は苦手でしょうから。
こういう雰囲気が苦手でなければぜひどうぞ。