tontonの終わりなき旅

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『仁木兄妹長篇全集―雄太郎・悦子の全事件(1)夏・秋の巻』仁木悦子

仁木兄妹長篇全集―雄太郎・悦子の全事件〈1〉夏・秋の巻

仁木兄妹長篇全集―雄太郎・悦子の全事件〈1〉夏・秋の巻


江戸川乱歩賞作家第一号で日本のクリスティーと言われる仁木悦子は、持論の「本格推理小説は謎解きとして面白く、手掛かりはすべて作中に出して、読者が探偵と同じ立場で推理の楽しみを味わえるものでなければならない」という建前を堅持して本格ものに取り組んできた。
中でも著者と同名の仁木悦子・雄太郎兄妹の爽やかなキャラクターは、古今東西の魅力的な探偵の中でも好感度No.1であろう。
巻末に著者自筆の「作品ノート」と自筆「年譜」を特別収録。

「日本のアガサ・クリスティ仁木悦子さんの代表作で、第三回江戸川乱歩賞受賞作である「猫は知っていた」と2作目の長編「林の中の家」の2作を収録した全集第一巻です。
日本のミステリの歴史を語る上で仁木悦子さんの名前は外せないのではないでしょうか。
けれども「猫は知っていた」以外はなかなか手に入りにくいのですよねぇ…。
仁木さんの作品は10数年前(?)に何冊か読んだことがあるような気がするのですが、その書名も覚えてないということは当然内容も覚えていないということで…。
ミステリサイトの書評などを見ていてどうしても読みたくなってきたので、今回図書館に行って借りてきました。
やはりミステリ好きとしては基本は押さえておかないと…(*^_^*)


有名なのは断然「猫は知っていた」の方なのでしょうが、私は「林の中の家」の方が面白いと感じました。
ミステリとしての面白さも、文章の上手さも、2作目である「林の中の家」の方が数段上だと思います。
デビュー作が話題になってもその後消えて行ってしまう作家さんも多い中で、デビュー作が売れた後も確実に作家としてレベルアップしてたくさんの優れた作品を残した仁木さんは、さすが評価が高いだけありますね。
「猫は知っていた」も「林の中の家」も、プロットが綿密に練り上げられたガチガチの本格ミステリ。
けれども、奇抜なトリックや怪しい館や変な登場人物が出てくるわけではなく、人柄のよい普通の兄妹が控えめに*1、しかし見事に謎を解いていく過程がよいです。
伏線の張り方も無駄がなく、すべてが上手く考えられているのです。
特に「林の中の家」の伏線の隠し方はお見事!!
どうしたらこれほどたくさんの伏線を、読者に勘付かせずに何気なく文章中に忍び込ませることができるのでしょう??
これはもう、仁木さんが持って生まれた才能なんだろうなと思います。
非常に頭のよい、そしてもちろん何よりミステリを愛していた人だったのでしょうね。
仁木さんの場合、作品だけでなくその人生も興味深いです。
幼くして胸椎カリエスにかかり、人生の大半を病床で過ごした仁木さん。
昔は胸の病気に対する偏見は強かったでしょうし、寝たきり状態を脱しても身体障害者であることに変わりはなく、戦争で兄を亡くすなど、つらい思いもたくさんされたことと思います。
そんな仁木さんだからこそ、殺人を扱う小説でありながらとても温かでさわやかな作品を書くことができたのでしょう。


作品としては文句はないのですが、残念なのは誤字・脱字の多さ。
あまりに多すぎて閉口しました。
ただでさえ文章自体が古くて読みにくい*2のに、誤字や脱字まであったのでは、読書の流れを断ち切られまくりでイライラしましたですよ…(苦笑)
文章自体の古さはそれはそれで味があるものですからいいのです。
でもね、誤字脱字はね、編集者がちゃんとチェックしていれば排除できるものでしょ?
古い本なら誤植はある程度仕方がないとも思うのですが、この本は1999年刊行…まさか1字1字植字したわけじゃないですよね。
明らかに編集者の怠慢。
せっかくの素晴らしい作品を編集のまずさで台無しにするのはどうかと。
ということで本としての評価は☆4つにしておきます。
誤字脱字の少ない読みやすい版があればそちらを買いたいです。
講談社文庫の『江戸川乱歩賞全集』はどうなんでしょうね?

*1:とっても大げさに大々的に謎解きを披露する探偵もミステリ小説には多いですよね…

*2:今から50年近くも前の作品ですから当り前です