tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『レインレイン・ボウ』加納朋子

レインレイン・ボウ

レインレイン・ボウ


昔のチームメイトの通夜で久しぶりに集まった陶子たち7人。
来なかったのは一人だけ…。
7人の視点を通して語られる、それぞれの人生。
女たちの友情と成長を描き爽やかな読後感を残す青春ストーリー。

加納朋子さんの代表作といえば、『ななつのこ』『魔法飛行』『スペース』と続く「駒ちゃんシリーズ」ということになるのでしょう。
もちろん駒ちゃんも好きですが、私が(あくまでも「今」の私が)共感を覚えるのはどちらかというと『月曜日の水玉模様』と本書『レインレイン・ボウ』の「陶子さんシリーズ」の方なのです。
『レインレイン・ボウ』には同じ高校のソフトボール部で汗を流し、その後7年経って、それぞれの人生を送る7人の女性たちが登場します。
7人はそれぞれタイプは違いますが、それでも彼女たちが抱いている思いや悩みには、それぞれにおいてどこか「ああ分かる分かる」と思える箇所があるのです。
高校を卒業して7年となると、25歳になっているわけですが、25歳という年齢は、女性にとっては一つのターニングポイントなんですよね。
22歳で大学を卒業して就職したとすると、25歳でちょうど就職して3年経つことになります。
就職3年目というのはようやく仕事が分かってきて落ち着いてくるものの、逆に心は落ち着かなくなってくる頃なのです。
自分が選んでやって来た道は本当に正しかったのか、今自分がいる場所はここで本当にいいのか、この先自分はどこへ向かおうとしているのか、どこへ向かえばいいのか…。
考えて答えが出るようなものではなく、正解は誰にも分からないのですが、それでもみんな少しでも目指すものに近付こうとしてあがいて、実際に転職したり結婚したりといった行動に移す人もいます(私もその一人でした)。
また、本書には書かれていませんが、25歳という年齢の女性はからだにも変化があるように思います。
少なくとも私は、25歳前後で自分のからだがより妊娠や出産に備えるように変わってきたという実感があります。
だから余計あせるんですよね、もしかして働いている場合ではない?なんて…。
陶子たち7人も子育て中の専業主婦だったり、バリバリ働くキャリアウーマンだったり、結婚生活も仕事もやっている兼業主婦だったりと立場はそれぞれ違うものの、みんなそれぞれ悩みや迷いを感じています。
読みながら、そうそう、仕事中こっそり人目につかないところで涙を流したり、友達との付き合い方が微妙に変わってきたり、家族との関係を冷静に考えたり、するんだよね、とうんうんうなずいていました。
リアルな「25歳の女性」の姿が、きちんと描かれていました。


もちろん加納さんお得意の「小さな謎」もちりばめられています。
また、7編の物語のすべてが、小さな小さな恋の物語でもあります。
けれどもやっぱりこの作品は、現代を生きる「25歳の女性」の現実とさまざまな思いを凝縮した作品だというべきでしょう。
そういう意味では、加納さんの作品だからということでミステリ的面白さを期待して読んだ人はちょっとがっかりするかも。
個人的には共感できる部分が多く、続編への期待も高まりました。
ただ、ちょっとどこかで読んだようなモチーフが多かったかな(最後の終わり方が宮部みゆきさんの『火車』と似てるし、姓の「村崎」と色の「紫」とをかけたネタはあだち充さんの短編漫画にありました)と感じたので☆1つマイナスの☆4つというところでしょうか。