tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『秘密。私と私のあいだの十二話』ダ・ヴィンチ編集部(編)


レコードのA面・B面のように、ひとつのストーリーを2人の別主人公の視点で綴った短編12編。
たとえば、宅配便の荷物を届けた男と受け取った男の扉をはさんだ悲喜こもごも、バーで出会った初対面の男女、それぞれに願いを叶え合おうといった男の思惑、応えた女の思惑など……。
出来事や出会いが立場の違い、状況の違いでどう受けとめられるのか、言葉と言葉の裏にあるものが描かれた不思議な一冊。

紹介文にあるように、1つのストーリーに対して別の視点から綴られた2つのショート・ショートが12人の作家分収められている短編集です。
活字中毒者御用達の雑誌「ダ・ヴィンチ」で連載されていたものをまとめて文庫化したものなのですね。
そしてこれがまた豪華な執筆陣なのです。
吉田修一森絵都佐藤正午有栖川有栖小川洋子篠田節子唯川恵堀江敏幸北村薫伊坂幸太郎三浦しをん阿部和重(敬称略)。
そうそうたる顔ぶれですね。
これだけで作品に外れがないことが容易に予想されます。
テーマ自体も面白いですよね。
視点をひっくり返してみると、思いがけない真相が明らかになって驚かされたり、そういうことだったのかとニヤリとさせられたり、ほほうと感嘆の声を上げてしまったり。
12編それぞれに工夫が凝らされていて、思った以上に楽しめました。
私が特に好きな作品を挙げるなら、森絵都さんの「彼女の彼の特別な日」「彼の彼女の特別な日」、有栖川有栖さんの「震度四の秘密―男」「震度四の秘密―女」、北村薫さんの「百合子姫」「怪奇毒吐き女」、阿部和重さんの「監視者/私」「監視者/僕」ですね。
ショート・ショートなのであらすじを紹介するのは難しいのですが…(^_^;)
森絵都さんのはなんだかほろりとさせられました。
元彼の結婚式に出席した後、ひとりバーで飲む女。
その女に近付く男。
思わず顔がほころぶ結末にほっこりした気分になります。
ぜひぜひこのラストシーンの続きにある物語を読みたい!
有栖川有栖さんのは「おお、アリスってばこんなラブストーリーも書けるのね!」と新発見をしたようでうれしくなっちゃいました。
結婚を目前に控えたあるカップルのお話なのですが、同じようなことをやっている似たものカップルのように見えて実は女性の方が一枚上手。
きっと結婚したらだんなさんは奥さんに上手に操縦されるんだろうなぁ…と想像して楽しくなりました。
笑えたのが北村薫さんのお話。
てっきり森絵都さんのようなほんわか心が温まるような結末なのかと思いきや…そう来るか。
ありがちといえばありがちなオチかもしれませんが、登場人物のキャラクターが秀逸で笑えました。
そして、読み終わった後「え!?」と驚いて、思わずもう一度読み返してしまったのが阿部和重さんのお話。
1話目の「監視者/私」を読んだ時は正直「なんだこりゃ?」と思ったのですが、視点が変わった2話目の「監視者/僕」を読んでびっくり。
つ、つまりこれは、「私」=○○ということなのですね!?
やられた〜!
これは上手いです。
完全に一本取られました。
まさかこんな短い(1話3ページほど)話の中に、謎解きミステリの結末のような驚きを仕込むとは。


執筆陣の豪華さに惹かれて読んでみた本でしたが、想像以上に面白かったです。
1時間足らずで読めてしまう短さですので、ちょっとした暇つぶしにもいいと思います。
☆4つ!!