tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『幻色江戸ごよみ』宮部みゆき

幻色江戸ごよみ (新潮文庫)

幻色江戸ごよみ (新潮文庫)


盆市で大工が拾った迷子の男の子。
迷子札を頼りに家を訪ねると、父親は火事ですでに亡く、そこにいた子は母と共に行方知れずだが、迷子の子とは違うという…(「まひごのしるべ」)。
不器量で大女のお信が、評判の美男子に見そめられた。
その理由とは、あら恐ろしや…(「器量のぞみ」)。
下町の人情と怪異を四季折々にたどる12編。
切なく、心暖まる、ミヤベ・ワールドの新境地。

長らく時代小説を苦手ジャンルとしてきた私。
けれども宮部さんや京極夏彦さんらの作品のおかげで、ようやく苦手意識が薄れてきました。
この作品は時代小説初心者の私にもとても読みやすかったです。
さすがはミヤベ。
文章の読みやすさは現代社会派の長編でも時代ものの短編でも全く変わりません。


この作品の読みやすさは、短編であるということと、名もない一般庶民の人情物語であるがゆえのとっつきやすさから来ていると思います。
時代小説というと「歴史もの」を連想しがちですが、宮部作品は違います。
華やかな歴史の表舞台の陰に埋もれた、名もなき人々の日々の暮らしの一片を切り取ったような、ありふれた人々のありふれた人生の悲喜こもごもを描いた作品ばかりです。
一話一話はとても短いですが、そこにあふれる人情の温かさや悲哀、切なさ、つらさ、恐ろしさ…そういった人の心の機微に引き込まれそうになります。
『幻色江戸ごよみ』に収められている12編の短編のうち、特に私の心に残った作品は、「器量のぞみ」「神無月」「侘助の花」「紙吹雪」です。
「器量のぞみ」は「幽霊」が関わってくるちょっと恐ろしげなお話ですが、読後感の爽快さはこの短編集の12作の中で1番でした。
どちらかというと切ない系のお話が多い宮部作品の中では珍しいハッピーエンドのような気がします。
逆に読み終わったとき切なく悲しい気持ちになったのが「神無月」「侘助の花」「紙吹雪」の3作でした。
特に「紙吹雪」はとても短い話でありながら全編を通して悲しくて、泣けてきました。
でも、悲しいだけではないのが宮部作品のいいところ。
楽しいことばかりじゃない、悲しいことも辛いこともたくさんある人生。
それでも、あたたかく優しく綺麗な心を持つ人々がいて、不思議な奇跡が起こることもある。
だからもうちょっと頑張ってみようかな…と。
現代物であれ時代物であれ、宮部みゆきさんの小説は、いつだってそう思わせてくれるから大好きなのです。
☆4つの良作。