tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『春期限定いちごタルト事件』米澤穂信

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)


小鳩君と小佐内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある高校一年生。
きょうも二人は手に手を取って清く慎ましい小市民を目指す。
それなのに、二人の前には頻繁に謎が現れる。
名探偵面などして目立ちたくないのに、なぜか謎を解く必要に駆られてしまう小鳩君は、果たしてあの小市民の星をつかみとることができるのか?
新鋭が放つライトな探偵物語、文庫書き下ろし。

何がいいってこのタイトルがいいですね。
まさにこの季節に読むのにぴったり。
今この旬のうちにいただくのがおいしい、「日常の謎」ミステリ短編集です。
ライトな感じのタイトルや表紙とは違い、謎解きはけっこう本格的だと思います。
私が一番好きなのは「おいしいココアの作り方」ですね。
私もココア大好きなんですが、そのココアの作り方がミステリのネタになるとは思いませんでした。
日常のなにげないところに注目し、そこにある謎を解く…北村薫さんや加納朋子さんの作品で味わったのと同じ驚きと面白さがこの作品にもたっぷり盛り込まれていました。
日常の謎好きの人は必読です。


そして、この作品のもう一つの魅力はやはりキャラクターでしょうね。
小鳩君は頭が切れるがゆえに苦しんでいるタイプの探偵です。
確かに、何か謎があってみんなが頭を抱えている中、一人真相を見抜いてあっさり謎を解いて見せたら…一度目は「わー、すごーい」と周りの賞賛を得られるかもしれません。
けれどもそれを何回もやられたら、「ちょっとやなヤツ」と思ってしまう人もたくさんいるでしょう。
なんでも「人よりずば抜けている」というのは賞賛以上にやっかみや妬みも買いやすいものですから。
だから小鳩君は謎解きを避けて、小市民として慎ましやかに生きようとしています。
なのに謎を解かねばならない状況になってしまうあたり、もはや探偵役をやらねばならないのは彼の運命なのだから、あきらめて人に嫌われてでも探偵をやったほうがいいのではないかと思います。
どんなに頭が切れても、探偵面して目立ちたくない、嫌われたくないと考える小鳩君はやっぱり15歳の高校1年生。
これが吹っ切れて人の目も気にならなくなったら、御手洗((C)島田荘司)や榎木津((C)京極夏彦)のような変人奇人になってしまうのかもしれませんね(エノさんは推理はしないけど…)。
一方小鳩君と互恵関係にある小佐内さんはなんだか気になる女の子です。
とってもかわいらしいイメージの彼女、過去はなにやらすごかったらしい…非常に気になるところですので、ぜひ続編で彼女の過去を暴いて欲しいものです。


楽しんで読みましたが小鳩君はあんまり好きじゃない(個人的な趣味で恐縮ですが)ので星マイナス1で4点!