tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『H2 14巻 サンデーコミックスワイド版』あだち充

H2 (14) (少年サンデーコミックス〈ワイド版〉)

H2 (14) (少年サンデーコミックス〈ワイド版〉)

いよいよ高校生活最後の年。
その前に比呂たち千川高校野球部は、春の選抜高校野球大会に出場。
再び甲子園のマウンドに戻った比呂だったが、1回戦の先頭打者にいきなり初球ホームランを浴びてしまう。
夏の甲子園でもツキに見放されて敗れ去った千川。
比呂は甲子園と相性が悪いのか…?
一方、選抜に出場できなかった明和一高野球部では、英雄がバッティング投手の役を買って出ていた。
ところが、バッターの打った打球が英雄の顔面に直撃。
左目が腫れあがり病院に運ばれる。
それでもやがて腫れは引き、ひかりにもチームにも「全然大したことはない」と言う英雄だが、風邪を引いても練習を休んだことのなかった英雄が練習を休んだ。
英雄を心配しながらも、ひかりは甲子園へ比呂の応援に向かう…。


13巻で波乱の後急激に距離を縮めた比呂と春華。
14巻では今度は英雄とひかりの関係に暗雲が漂い始めます。
今までずっと、ひかりと比呂が仲良くしていても余裕の表情でそれを見守ってきた英雄でしたが、思わぬ怪我をしたことで弱気になったのでしょうか。
まぁもともと男として完成されすぎと言うか、高校生とは到底思えない「大人の男」だった英雄ですが、初めて自分の中にある比呂への嫉妬心に気付きます。
ここにきて初めて英雄の切なそうな表情を見た気がします。
いやいや、英雄も普通の17歳の男の子だと分かってよかったよ(^_^;)
恋愛に関してはとことん子どもっぽい比呂と同い年なのにギャップがありすぎたもんね。
それでもやっぱり比呂とは違う大物感が漂っている(比呂も実力は超高校級なんですが、彼はまだまだ成長途上な感じがするんですよね…)ことを感じさせるのが次のセリフ。

ひかり。
おまえの幼なじみをまちがいなく高校No.1ピッチャーと認めた上で言っておく―
国見比呂でも橘英雄は抑えられない。

自信満々ですねぇ。
いや、男の人は自信過剰なくらいがちょうどいいと思います。
以前とある女性向けのファッション誌で、「結婚するなら自称『じゃんけんに強い』男がよい」というコラムを読みました。
自ら「じゃんけんに強い」と言う男は、本当に強いかどうかは関係なく、「5連敗しても次に6連勝して逆転してやる」と考える男で、そういう男こそが最終的に勝ち組になるのだとか。
仕事も趣味も目いっぱい楽しみたいという現代女性にとって、結婚は失うものも多いが、そういう男になら全てを投げうってでも自分の人生を預ける価値があるし、決して結婚したことを後悔することもないでしょう、と。
なかなか面白い話ですよね。
で、まさに英雄が「じゃんけんに強い」男かなぁと思うのです。
うん、なんて言うか、英雄は恋人にしたいタイプと言うよりは結婚したいタイプなんですよ。
バリバリ働いてもりもり稼いできてくれそうだし(笑)、浮気もしなさそう。
…しかし高校生にして「結婚したいタイプの男」になっちゃってていいのか、ヒデちゃん…(^_^;)


「結婚」の話になりましたが『H2』には比呂たちが「将来」について語るシーンが多いなぁと思います。
それで気付いたんですけど、『タッチ』と比べると明らかに女性像が変化しているんですよね。
『H2』の2人のヒロイン、ひかりと春華は、それぞれスポーツ記者とスチュワーデスという明確な将来の目標を持っていて、それを実現するために努力も怠っていません。
プロ野球入りして活躍することが確実視されている英雄を恋人に持つひかりですが、英雄と結婚するよりも何よりも、まずは仕事がしっかり出来るようになって、社会人として自立したいという考えを持っています。
これに対して『タッチ』の南の夢は「自分の高校の野球部が甲子園に出場して、甲子園のスタンドでそれを観ること」と「好きな人のお嫁さんになること」でした。
この2つ、どちらも「男性に叶えてもらう」夢なんですよね。
「夢は自分の力で叶えるもの」と考え努力するひかりや春華とは対照的です。
『タッチ』は80年代の作品、『H2』は90年代の作品。
10年の時が流れる間に女性の社会進出が急速に進み、自立心の強い女性が増えたことを反映していると思います。
…むむ、なんか大学のフェミニズム論のレポートみたいになったな〜。
現役大学生の皆さん、よかったらこのネタ使ってみてくださいな(笑)
評価は保障しませんが。