tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『魍魎の匣』京極夏彦

文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫)

文庫版 魍魎の匣 (講談社文庫)


匣の中には綺麗な娘がぴったり入ってゐた。
箱を祀る奇妙な霊能者。
箱詰めにされた少女達の四肢。
そして巨大な箱型の建物―箱を巡る虚妄が美少女転落事件とバラバラ殺人を結ぶ。
探偵・榎木津、文士・関口、刑事・木場らがみな事件に関わり京極堂の元へ。
果たして憑物は落とせるのか!?
日本推理作家協会賞に輝いた超絶ミステリ、妖怪シリーズ第2弾。

ああ、やっと読み終わった…(^_^;)
年末から読み始めて、読み終わったのやっと昨日ですよ。
まぁ私の読むのが遅いというのもあるんですけど…。
文庫なのに1000ページ越えてるなんて、びっくりです。
もはやこの本の大きさと形がむしろ「ハコ」!?といった感じでした。


それにしても、京極さんは本当にすごい人だと、その著作を読むたびに思わされます。
確かに探偵役の京極堂の長くて理屈っぽい薀蓄語りは難しくて読むのが大変で、論理的思考の苦手な私は京極堂に「君は全く物分かりが悪いなあ」なんて言われてしまいそうなのですが、一見冗長で蛇足な部分に思えるこの演説も、実はすべて物語の真相に近付くために絶対に必要な要素ばかりなのです。
そこが京極堂シリーズのすごいところですね。
こんなに長い物語なのに、無駄な部分は実は全くないのですから。
京極さんは本当に緻密で論理的で独特の物語を生み出す作家さんだと思います。
発想も独特なので、「ミステリ」という枠の中で固定観念に縛られて読んでいると、結末に唖然としてしまいます(ほめ言葉です)。
扱っている一つ一つの事件は「普通のミステリ」っぽいんですよね。
バラバラ殺人とか、密室からから人が消えたとか、脅迫状とか。
しかしだからといって「普通のミステリ」の結末(奇想天外なトリックの仕掛けが明らかになって、探偵が犯人を指摘して、犯人が犯行に至った動機を告白して…)を期待していると肩透かしを食らったような気分になるかもしれません。
でも、そこが京極作品の魅力なんですね。
いい意味で、読者の固定観念をきれいに取り去ってくれる。
そう、まるで憑物を落とすように…。


この作品にいろんな形で、いろんな意味で登場する「ハコ」についてもいろいろと考えさせられました。
「ハコ」というところから私はなんとなく「パンドラの箱」を思い浮かべながら作品を読んでいました。
パンドラの箱は、一人の女性の手によってふたを開けられたことにより、そこに封じ込められていたあらゆる災厄が解放され世界を覆いつくしていくが、最後に箱の中から希望が出てくる…というものですね。
では、「魍魎の匣」が開かれた時、中から最後に出てきたものは一体なんだったのだろう、と。
初めのほうに刑事の木場が「木場という人間の本質はハコの中にしまいこまれていて、木場はそれを開けて人に見せようとはしない」といった内容のことが書かれていますが、最後に木場がようやく自分の「ハコ」を開いた時、そこから出てきたものは、やっぱり「希望」だったんじゃないだろうかと…そう思いましたし、そうであって欲しいと思っています。
切ない余韻の残るラストがとても素晴らしい作品でした。