tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『同級生』東野圭吾

同級生 (講談社文庫)

同級生 (講談社文庫)


同級生の宮前由紀子は俺の子を身ごもったまま、そして俺の愛が本物だったと信じたまま事故死した。
俺にできる償いは本気の関係だったと皆に告白することと事故の真相を暴くことだけだった。
やがてある女教師が関わっていたことを突き止めるが、彼女の絞殺体が発見されるや、一転俺は容疑者にされてしまう。

教師って、つくづく損な職業ですね。
この作品を読んで、そう思いました。
「学校の先生」って、子どもたちにとっては親以外の一番身近な大人なんですよね。
だから、どうしても子どもたちの大人への反発は教師に集中してしまうことになります。
「教師が大嫌いだった」という作者の東野さんがあとがきで言われているように、中高生くらいの子どもって本当は全ての大人社会に対して不信感や怒りを持っていて、でもその不信感や怒りをうまく表す術が分からないから、教師への反発という形で示すしかないのですよね。
でも、その子どもたちもいつか大人になって気付きます。
教師という嫌われ役は、自分が大人になる過程において、絶対に必要な存在であったのだと。
東野元少年がそう気付いたように、いつか本書の主人公も気付くのでしょう。
その時にはすでに教師とは縁遠くなっていて、だから教師は自分が報われたとは感じることはないまま、嫌われ役の仕事をずっと続けていかなければならない…。
悲しいくらいに損な職業です。


でも、今や私は嫌われ役の先生たちの方に立場が近くなってしまったので、この作品の主人公は大人ぶってて偉そうで礼儀知らずで恩知らずで、子どものくせにクチばかり達者で、こんな生徒を相手にしなきゃならないんだからそりゃ先生だって嫌になるよなぁと苦笑せずにはいられませんでした。
東野圭吾さんは初期作品にいくつか学園物を書かれていますが、さすが「教師が大嫌いだった」だけあって(?)あまり「いい先生」というのは登場しません。
例外は『卒業―雪月花殺人ゲーム』に出てくる茶道部の先生くらいでしょうか。
けれども誰でも嫌いだった先生をひとりくらいは思い出せるでしょう。
そしてその「嫌いだった先生」は、やっぱり東野さんが書く「嫌われる教師」像と一致するのです。
中高生が読んだらかなり共感できそうな学園ミステリですね。
でも、恋愛・友情・勉強・部活といった青春につきものの題材が何一つ欠けることなくきちんと登場しているので、大人も楽しく読み進めながらほんの少し学生気分に戻れる良作だと思います。