tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『覆面作家の愛の歌』北村薫

覆面作家の愛の歌 (角川文庫)

覆面作家の愛の歌 (角川文庫)


ペンネームは覆面作家―本名・新妻千秋。
天国的美貌でミステリー界にデビューした新人作家の正体は、大富豪の御令嬢。
しかも彼女は現実に起こる事件の謎までも鮮やかに解き明かす、もう一つの顔を持っていた!
春のお菓子、梅雨入り時のスナップ写真、そして新年のシェークスピア…。
三つの季節の、三つの事件に挑む、お嬢様探偵の名推理。
人気絶頂の北村薫ワールド、「覆面作家」シリーズ、第二弾登場。

北村薫さんが得意とする連作短編集です。
一作目『覆面作家は二人いる』*1で颯爽と(?)ミステリ界にデビューしたお嬢様・千秋。
その千秋さんの担当編集者でありながら、千秋さんに身分不相応な(?)恋心を抱くリョースケ。
二人の恋の行方も気になりつつも、あたたかなユーモアにあふれた文章と、個性的で面白い登場人物たちと、そしてなんと言っても短いながらも思わずうならされる謎解きを楽しめる。
このシリーズはそういう作品なのです。
さらにこの二作目にはなんともすばらしい感動も待っていました。

「B5にしろ、文庫にしろ、ハードカバーにしろ長方形。書く者、作る者、読む者、皆な、紙の四角が繋ぐんだね。―海の向こうとこちらに分かれても、―間で、泡だつ波や不機嫌な雲、それから気まぐれな風がいっくら騒いだって、本を手にしたら、いつだってあの人に会える。本を作る仕事って、そういうものなんだね」
―――「覆面作家のお茶の会」より

北村薫さんはその著作のあちこちに「本への愛情」をにじませています。
北村さんの本を読むと、本が好きでよかったと思います。
この一節を読んだときもそう思いました。
でも、本当の感動は作品を読み終わった後、解説の中で待っていたのです。
思いがけず、泣かされてしまいました。
ただ単にいつもの通り北村さんの本への想いを表した文だと思っていたのに、こんな裏事情があったとは…。
これまで何冊もの本を読んできましたが、解説で泣いたのは初めてです。
その解説の筆者は北村さんの元担当編集者。
作家の千秋さんと編集者のリョースケが紡ぐ物語は、北村さんがお世話になった編集者に対する感謝を込めた贈り物なのでしょう。
北村さんの人柄を見たような気がして、ますますファンになりました。

*1:ASIN:4043432011