tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『「ABC」殺人事件』

「ABC」殺人事件 (講談社文庫)

「ABC」殺人事件 (講談社文庫)


連続殺人犯vs.名探偵、これぞミステリー!
名探偵に送りつけられる挑戦状、法則性のある連続殺人事件、そして驚くべき真犯人!
女王・クリスティの名作「ABC殺人事件」をモチーフに5人の鬼才が綴る、華麗なる事件簿。
「灰色の脳細胞」ポアロをしのぐ名探偵は果たして誰か。
ミステリーファンに贈る、文庫創刊30周年記念・書き下ろしアンソロジー!!

ずっと読みたくて探していた(なぜか私の行く本屋にはことごとくなかった)『「ABC」殺人事件』をようやく読むことができました。
この作品は、タイトルの通りクリスティの『ABC殺人事件』という作品に対する5人の作家によるオマージュ短編を集めた作品集です。
5人の作家とは、有栖川有栖恩田陸加納朋子貫井徳郎法月綸太郎という豪華な顔ぶれ。
さすがにクオリティは高いので、どれもはずれがありません。
ミステリ好きはもちろんのこと、ミステリ入門としてもいいかもしれませんね。


一番面白かったのは(というか私の好みだったのは)貫井徳郎さんの『連鎖する数字』かな。
若い刑事と安楽椅子探偵役を務めるその学生時代の先輩のコンビが面白かったです。
推理がちょっと強引だなぁと思っていたら、ちゃんとどんでん返しの結末も用意されていて、ミステリとしても納得の出来。
貫井作品で読んだことがあるのは『慟哭』のみですが、犯人の心情や犯行の理由付けなどは『慟哭』に似ていました。
『慟哭』も好きな作品だし、もう少し貫井作品を追いかけてみようかな。


一番結末が意外だったのは法月綸太郎さんの『ABCD包囲網』。
このまま終わるんじゃ面白くないよなぁ、と思っていたらちゃんと意外なところにすとんと落ちて、一番まとまりがあったと思います。
実は法月さん初体験だった私。
面白かったし他の作品も読んでみるか(どんどん読みたい本が増えていくな)。


クリスティへのオマージュという観点で行けば、一番『ABC殺人事件』の設定を生かしていたのは有栖川有栖さんの『ABCキラー』だと思います。
正直ミステリとしてはどんでん返しもなく落ち着くところに落ち着いたという感じで、ちょっと物足りない感じもしなくはなかったのですが、ラストの切なさというかやるせなさはさすが有栖川有栖さん。
舞台が大阪・京都で、私にはなじみの地名(というかめちゃくちゃ近所の地名も出てきてビックリ…笑)ばかりで面白かったです。


クリスティの『ABC殺人事件』の設定を生かして加納朋子さんらしく書かれたのが加納朋子さんの『猫の家のアリス』。
タイトルから分かるように、私立探偵の仁木とその助手の安梨沙のコンビが活躍する『螺旋階段のアリス』や『虹の家のアリス』シリーズの1篇です。
この作品のみ殺人は起きません。
大好きな加納作品ですが、あまりこの作品には感情移入できませんでした。
猫より犬派だからかなぁ。
猫も2,3匹なら可愛いんだけど、10匹以上も住んでる家なんて私はやだなぁと思ったら、あんまり…。
登場人物は毎度のことながらほほえましい人物ばかりでよかったですが。


最後になってしまいましたが、けっこう気に入った恩田陸さんの『あなたと夜と音楽と』。
ラジオ番組の男女二人組のパーソナリティという設定で、彼らの会話のみで物語が進んでいくところはアイディア賞もの。
ちゃんとミステリになってるし。
リスナーとしてラジオを聴いているような感覚で楽しめる小説でした。


探して買った価値があった本です。
恩田陸さんと貫井徳郎さんの作品はどこがクリスティの『ABC殺人事件』と関連しているのかイマイチよく分からなかった(笑)けど、読んでよかったと思います。
読みたい作家が増えたのは大収穫でした。
でも読みたい本ばかり増えていって、実際はそんなにどんどん読めないんだけどね…(^_^;)