tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『水に眠る』北村薫

水に眠る (文春文庫)

水に眠る (文春文庫)


見合い話に苛立ち、後輩の若さがふと眩しい美也子の淡々とした日々に鳴り響く謎の電話。
そして一年が過ぎて…「恋愛小説」。
同僚に連れていかれた店で飲んだ水割りの不思議な味。
ある切ない夜、わたしはその水の秘密を知る…「水に眠る」。
人の数だけ、愛がある―様々な愛の形を描く短篇集。

なんというか…不思議な、そして少し切なく物悲しい独特の雰囲気を持った話ばかりでした。
正直に言うと、この短編集はかなり読み手を選ぶかもしれません。
10篇の短編集ですが、どの話も設定は少し変わっていますが、話の流れには起伏が少なく、淡々と進んで意味が分からないまま終わってしまったりするものもありました。
しかし、北村薫らしい世界ではあったと思います。


私が気に入ったのは『恋愛小説』と『植物採集』と『矢が三つ』。
『恋愛小説』では28歳の保険会社員の女性を主人公に、電話から流れ出すピアノの音色から始まる恋を描いています。
なんとなく主人公の気持ちがよく分かるんですよねぇ。
年齢が近いせいかなぁ。
設定としてはありえない恋愛の話ですが、微妙な年頃の主人公の、微妙な心の動きにはかなりリアリティがあります。
『植物採集』はあるOLの、同僚に対する決して表に出すことのない恋心を描いています。
とにかく切ない!!
想いを口に出していれば、少しは運命は変わっていたのかなぁ。
そして、『矢が三つ』は男女比が2対1であるため、二夫一婦という世界で暮らす、中学生の少女とその二人の父と一人の母の物語。
かなり変わった設定ですが、主人公の中学生の語り口がコミカルで面白かったです。
ちょっとした心遣いで人間関係がスムーズに行くようになるというのは、夫婦関係だけに限らずいろんな場面に当てはまることですよね。
人間関係で悩んでいる人に読んで欲しいお話です。


それにしても、「豪華解説」と称しているだけあって、解説の執筆陣はすごい顔ぶれですよ。
光原百合有栖川有栖加納朋子貫井徳郎若竹七海近藤史恵戸川安宣おーなり由子山口雅也、澤木喬、水星今日子。
この豪華すぎる解説だけでも読む価値ありかも!?