tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『模倣犯・下』宮部みゆき

模倣犯〈下〉

模倣犯〈下〉


炎上しながら谷底へ落ちていく一台の車。
事故死した男の自宅には、数々の「殺人の記録」が。
事件を操る真犯人の正体は…?
あまりに切ない結末、魂を抉る驚愕と感動の長篇ミステリー。

宮部みゆきさんの『模倣犯 下』を読み終わりました。
長い話でした。
余分な部分が多すぎるという意見が多いのにも納得できます。
でも、これだけ長い話でありながら、最後までビシッと一本の筋が通っていてそれが揺らぐことがないのはお見事。
そして、長くて脱線も多いが、語りすぎているということは決してありません。
読者自身が考え、想像できる余地が、十分に残されているのです。


作品を読み終わった後、感想をあらわすいい言葉が私には思い浮かばなかったので、いろいろなサイトの書評や感想を見てまわりました。
そこで多く見受けられたのは、「面白かった」「面白くなかった」という言葉。
私はこの言葉に違和感のようなものを感じました。
この作品は「面白い」「面白くない」で片付けられるようなものでしょうか?
私にはそうは思えませんでした。
この作品はフィクションです。
ミステリに分類される小説ですが、しかしこれは、エンターテイメントではありません。
娯楽として読むには、あまりに重すぎるのです。


この作品において大きな柱になっているものは、残酷な猟奇的殺人事件そのものではなく、その事件がもたらす社会や人間への影響です。
被害者の遺族たち、容疑者の家族たち、マスコミ、警察、その他大勢の一般市民たち。
立場はそれぞれ違いますが、彼らはそれぞれに悲しんだり、苦しんだり、傷ついたり、何かを失ったり、怒ったり、悩んだりしています。
犯罪はこうした負の感情ばかりを生み出します。
それこそが、宮部みゆきさんが『模倣犯』で書こうとしたことなのでしょう。


本の厚さと重み以上に、内容も重厚。
普段本など読まないという人には辛いかもしれない。
それでも、ぜひ多くの人に読んでもらって、何かを感じて欲しいと思います。
この作品がベストセラーとなり多くの人に読まれたということが、私には少しうれしいです。