tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『模倣犯・上』宮部みゆき

模倣犯〈上〉

模倣犯〈上〉


公園のゴミ箱から発見された女性の右腕。
それは「人間狩り」という快楽に憑かれた犯人からの宣戦布告だった。
比類なき知能犯の狂気に立ち向かう第一発見者の少年と孫娘を殺された老人、二人を待ち受ける運命とは?

宮部みゆきさんの『模倣犯・上』を読み終わりました。
う〜ん、やっぱり宮部みゆきさん。
あんなに長くて、ページをめくるとぎっしり文字が詰まってるという本なのに、読み出すとその長さを感じさせず、一気に物語の中に引き込んでいきます。
全部で三部構成らしいのですが、上巻では第一部と第二部の途中までが収録されています。


第一部は、ある猟奇的殺人事件に、死体発見者・被害者の遺族・ジャーナリスト・刑事など、さまざまな形で関わることになった人々の視点から事件の背景を明らかにしていきます。
被害者の無念、遺族の悲しみと憎悪がいろいろな言葉でつづられ、胸に迫ってきます。
帯にも引用されている、ある犯罪被害者の遺族側の人間のセリフ「誰も彼も、殺された側のことなんてこれっぽっちも考えてくれない!」には改めて犯罪被害者とその周囲の人たちの保護と支援の体制について考えさせられました。
残念ながら死んでいる人間(=被害者)よりも生きている人間(=犯人)の権利の方が尊重されるのが今の日本の実情。


そして、第二部は、第一部の最後に明らかになった犯人の視点から猟奇的殺人に手を染める過程を描いています。
これまでの宮部作品にも多くの極悪非道な犯罪者というのが登場してきましたが、今回の犯人はまた残酷でありながら今までとはタイプの違う犯罪者という感じです。
殺人や死体の遺棄などをゲーム感覚で楽しんでいるのです。
読んでいて腹が立ってくるくらいです。
ですが、犯人の一人「ピース」は上巻の時点ではまだまだ得体が知れません。
下巻ではおそらくピースが中心人物になってくるのだと思います。
彼がどんな人物なのか、この事件がどのような終焉を迎えるのか、下巻を読むのがとても楽しみです。


それにしても、被害者側の人間の思いと、犯人側の思いと、このふたつを対比させて事件の背後にあるさまざまな事柄を浮かび上がらせようとする宮部さんの手法に感心させられることしきり。
毎度のことではあるが登場人物一人一人の背景事情もきちんとフォローしています。
よっぽどきちんと設定作りをやりこまないと不可能なことではないでしょうか。
宮部みゆきさん一流のその技法を味わうだけでも、十分読む価値ありです。