tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『幽霊刑事』有栖川有栖

幽霊刑事 (講談社文庫)

幽霊刑事 (講談社文庫)


究極のラブ&ミステリ
俺は神崎達也。
職業、刑事。
美人のフィアンセを残して無念にも射殺された……はずが幽霊に!?
しかも犯人の上司が密室状況で何者かに殺されて……。
いったい真犯人は誰なんだ!
そして俺はどうなってしまうんだ!
ミステリーとラブストーリーが融合、2001年度本格ミステリー・ベスト10入りの傑作。

待望の文庫化(私にとって)第二弾は、有栖川有栖さんの『幽霊刑事』。
突然上司に殺された刑事が、幽霊となって自分の殺人事件の真相を追うという話なのですが、ミステリ的側面よりも、ラブストーリー的側面の方が強かったように思います。
幽霊となってこの世に舞い戻った主人公。
イタコの血を引く同僚には姿が見え、会話もできるのに、最愛の婚約者とは言葉も交わせず、触れることもできず、ただ見守ることしかできない…。
この切ない設定から、「有栖川有栖版『ゴースト』」とも言われるこの作品。
こういう設定には弱いです、私…。


読む前から期待は大きかったです。
読んでみて、やっぱり切なくて、どうなることかとハラハラドキドキして、最後は感動で胸がいっぱいになりました。
けっこうページ数は多かったのですが、長さは感じさせられませんでした。
正直ミステリとしてはイマイチだったと思います。
犯人もそれほど意外ではなかったですし、トリックが大掛かりなわけでもなく、特にどんでん返しがあるわけでもありません。
しかし、突然わけも分からぬまま殺され、幽霊としてこの世に舞い戻ったはいいけれど、物に触れることもできず、特定の人以外には存在を認めてもらえない、そんな主人公・達也の心理状態を追いかけるだけで、十分面白かったです。
欲を言うなら、恋人・須磨子の心理描写も読んでみたかった気がします。
主人公の一人称で語られているのでしょうがないのですが…。
ラストの仕掛けというか演出も効果的でよかったです。


自分の存在が誰にも認めてもらえなかったら。
それは、想像を絶する苦痛でしょう。
人間は誰しも、「私はここにいる」と主張せずにはいられない生き物だと思います。
月並みだけれど、人は一人では生きられないから。
実際には死後も幽霊となってこの世にかかわりを持てるとは思えません。
いのちある限り、自分が「ここにいる」という実感を、私に与えてくれる存在たちを大切にしていきたいと思います。