tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『三月は深き紅の淵を』恩田陸

三月は深き紅の淵を (講談社文庫)

三月は深き紅の淵を (講談社文庫)


すべてが謎めいた1冊の本はどこに?
鮫島巧一は趣味が読書という理由で、会社の会長の別宅に2泊3日の招待を受けた。
彼を待ち受けていた好事家たちから聞かされたのは、その屋敷内にあるはずだが、10年以上探しても見つからない稀覯本(きこうぼん)「三月は深き紅の淵を」の話。
たった1人にたった1晩だけ貸すことが許された本をめぐる珠玉のミステリー。

「新しい作家さんに挑戦するぞ」第三弾は、恩田陸さんの『三月は深き紅の淵を』。
実は恩田陸さんは去年の年末に『六番目の小夜子』を読んだので、厳密に言うと初めてじゃないのですが…。


六番目の小夜子』を読んだときにも感じたのですが、ストーリーとしては面白いし、引き込まれる部分もあるのですが、ミステリーとしてはなんだか釈然としないと言うか、謎を残したまま話が終わってしまうと言うか…不可思議な雰囲気をかもし出しています。
「すごくおもしろかった!!」と言うことはできないのですが、扱っている題材やモチーフや文章の雰囲気には惹かれるものがあります。


この作品は、加納朋子さんの『ななつのこ』や、綾辻行人さんの『迷路館の殺人』などと同様、作中作という方式をとった、入れ子構造の物語です。
発行部数が非常に少なく、作者が誰かも不明、たった一晩しか人に貸すことができない…など、多くの謎に包まれた幻の本「三月は深き紅の淵を」をめぐる、4つの章からなる物語です。
出版界の表舞台に出ている本ではないにもかかわらず、本好きな人々の間で口コミでその評判を広げる「三月は深き紅の淵を」。
すごく面白いらしい、でも手にすることは非常に困難…となれば、本好きならば誰しも気になってしょうがないはずですね。
恩田陸さんはこの本を非常に魅力あるものとして描写することに成功しています。
事実、私もぜひそんな本があるならぜひ手に入れて読んでみたいと思いましたから。
こんな素敵な「本」を描写することができるのは、作者である恩田さんが、本好きの心理をよく理解していて、もちろん本人が誰よりも本が好きであるからに違いないと思います。


私もこうして書評まがいのコラムや日記を書いていますが、自分が本を読んで得た感動や衝撃が伝えられているのかは疑問です。
だから、こんなに魅力的な「本」を描くことのできる恩田さんが心底うらやましいと思いました。
「我こそは本好きだ!」と自称する人にはぜひ読んでみて欲しい作品です。