tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『さみしさの周波数』乙一

さみしさの周波数 (角川スニーカー文庫)

さみしさの周波数 (角川スニーカー文庫)


「お前ら、いつか結婚するぜ」
そんな未来を予言されたのは小学生のころ。
それきり僕は彼女と眼を合わせることができなくなった。
しかし、やりたいことが見つからず、高校を出ても迷走するばかりの僕にとって、彼女を思う時間だけが灯火になった…“未来予報”。
ちょっとした金を盗むため、旅館の壁に穴を開けて手を入れた男は、とんでもないものを掴んでしまう“手を握る泥棒の物語”。
他2篇を収録した、短編の名手・乙一の傑作集。

新しい作家に挑戦!第二弾は乙一氏『さみしさの周波数』に。
それにしてもヘンなペンネーム…(笑)


最近自分よりも若い作家さんが活躍していて、なんだか自分がかなり年をとってしまったようで悲しいです。
でもいつまでもベテラン作家だけが活躍するような出版界では面白くないので、どんどん才能ある若手に頑張って欲しいという気持ちもあるし、複雑な気分…。
最年少芥川賞候補になった島本理生さんとか、『インストール』が話題になった綿矢りささんとか…う〜ん、若すぎ。
作品は読んだことがないのですが、その才能がうらやましいです。
乙一さんもそんな若手作家の一人で、ホラーっぽい作品や切ない作品で最近よく名前を聞くようになりました。


『さみしさの周波数』はちょっと不思議で、ちょっと切ない話が4つ収録されている短編集。
個人的に一番好きなのは『未来予報 あした、晴れればいい。』かな。
ちょっと不思議なクラスメイトに、近所に住む女の子と将来結婚すると予言された少年が、以来その少女のことをずっと意識しつつも、具体的な行動は何も起こせないまま生きていく…という話。
こういうことってよく起こるんじゃないでしょうか。
お互いに意識しつつも、素直になれなかったり、勇気が足りなかったり、すれ違いばかりだったりして、結局結ばれることなく終わってしまう恋…。
いや、恋と言えるほどのものでもないのかもしれないけど。
やりたいことも見つからないまま、空虚な生活をしていた主人公が、心の片隅で想っていた少女を失って、それからどんな人生を送っていくのかが気になります。


他に、『失はれた物語』も切ないです。
本当は愛しているのに妻とけんかばかりしてしまう主人公が、突然交通事故に遭い、右腕の感覚だけを残して視覚・聴覚・触覚などあらゆる感覚を失った植物人間状態になってしまう物語。
植物人間になった夫のために毎日病院にやってきて献身的な看病をする妻。
その妻がだんだん疲れて行っているのに気付いた夫の選択が切ない…。


この2作品に共通して描かれているのは、自分の本心を相手に伝えられないもどかしさ。
しかももう二度と伝えられることはないのです。
もっと早く、素直になっていれば…と後悔してもしょうがないのが悲しい。


胸に秘めたことばは、早めに外へ出してしまいましょう(笑)