tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『GO』金城一紀

GO (講談社文庫)

GO (講談社文庫)


僕は何者?
日本で生まれ、日本で育ったけれど、僕は“在日”と呼ばれる。
元ボクサーのオヤジに鍛えられ、これまで喧嘩二十三戦無敗。
ある日僕は恋に落ちた。
彼女はムチャクチャ可愛らしい“日本人”だった―。
軽快なテンポとさわやかな筆致で差別や国境を一蹴する、感動の青春恋愛小説。
直木賞受賞作。

「在日ポップ文学」という触れ込みの、金城一紀さんの直木賞受賞作品『GO』を読みました。
在日朝鮮人の男子高校生が主人公の青春小説です。
確か映画化もされていたはずですね。


日本人には「チョン」と言われバカにされ、社会的にもさまざまな面で差別を受ける。
ハワイに旅行に行くために韓国籍に変えたら(日本と国交のない北朝鮮籍ではパスポートが取れないため)同じ在日朝鮮人社会からも「裏切り者」として迫害される主人公。
差別の上に重ねられる差別…。
日本に生まれ、日本語を話し、日本で生きているのに、なぜ日本人は「在日」韓国人・朝鮮人という言い方をするのかという主人公の問いかけが痛かったです。
主人公が言うように、国籍なんて意味がないものだと思います。
血筋なんてのも意味がないものです。
私たちは、地球という星に生まれた霊長類ヒト科ホモサピエンスだ、と言ってしまえば終わりじゃないですか。
「国」とか「民族」とか、そんなものは人間が勝手に与えた枠組みに過ぎないのです。
その枠組みにとらわれて、同じ人間同士が傷つけたり傷つけられたりするなんて馬鹿げていますよね。
この作品では、枠組みにとらわれてしまったがゆえに、報われなかった恋愛が描かれている場面があります。
そのエピソードの中では、差別する側も、差別される側も、とても不幸な結果を迎えてしまいました。
おそらくこのようなエピソードは、小説の中だけでなく、現実にいくつもあったのだろうと思います。
これ以上傷つく人を増やさないように、差別をなくして、理解しあえる社会を作っていかなければなりません。


…なんて、難しいこと考えずに、普通に恋愛小説として読むのがこの作品の正しい読み方なのかも、とラストシーンを読んで思いました。
そう、この人が好きだという動物的本能に近い気持ちは、全てを乗り越えていくのです。
ふたりの国籍の違いも、文化の違いも、お互いの国が犯してきた過ちの歴史さえも。