tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『嘘をもうひとつだけ』東野圭吾

嘘をもうひとつだけ (講談社文庫)

嘘をもうひとつだけ (講談社文庫)


バレエ団の事務員が自宅マンションのバルコニーから転落、死亡した。
事件は自殺で処理の方向に向かっている。
だが、同じマンションに住む元プリマ・バレリーナのもとに1人の刑事がやってきた。
彼女に殺人動機はなく、疑わしい点はなにもないはずだ。
ところが…。
嘘にしばられ嘘にからめとられていく人間の悲哀を描く、新しい形のミステリー。

お次はミステリに戻って、東野圭吾の『嘘をもうひとつだけ』。
東野作品ではおなじみの加賀刑事が活躍する短編集です。
ミステリは嘘がないと成り立ちません。
この嘘を暴くのがミステリの役目です。
しかし、その嘘ははかなく、悲しい。
自分の罪を隠すため、あるいは大切な誰かの罪を隠すために嘘を重ねて、結局余計な嘘がもとで追い詰められたりします。
私は完全犯罪者にはなれないなぁ〜、最後まで嘘をうまくつき通すなんてできっこないですから。
それにしてもほんのわずかな疑問から嘘を見抜き、犯人を追い詰める加賀刑事の手腕はお見事。
全ての嘘が暴かれた瞬間は、犯人の心情を考えれば切なくなるものの、爽快感があります。
この爽快感こそがミステリの醍醐味であり、この短編集に収録されている作品全てにそれを感じさせてくれる東野圭吾さんは、間違いなくミステリの名手と言えると思います。