tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『スキップ』北村薫

スキップ (新潮文庫)

スキップ (新潮文庫)


昭和40年代の初め。
わたし一ノ瀬真理子は17歳、千葉の海近くの女子高二年。
それは九月、大雨で運動会の後半が中止になった夕方、わたしは家の八畳間で一人、レコードをかけ目を閉じた。
目覚めたのは桜木真理子42歳。
夫と17歳の娘がいる高校の国語教師。
わたしは一体どうなってしまったのか。
独りぼっちだ―でも、わたしは進む。
心が体を歩ませる。
顔をあげ、『わたし』を生きていく。

この作品、一気に読み終えました。
最初に想像していたようなミステリでもSFでもなかったけど、とても面白く読めました。
17歳の一ノ瀬真理子がある日昼寝から目覚めたら、17歳の娘と夫を持つ高校教師、桜木真理子になっていた、という話。
単純なタイムスリップや変身(?)ものではなく、17歳の女子高生の意識が30年後の自分の中に入ったという感じ。


一気に中年の高校教師になってしまった真理子の戸惑い、あせり、悲しみ、驚きがとてもリアルに書かれていて、いったいどうなってしまうんだろう、と読んでるほうも真理子と一緒になってドキドキしました。
話の内容的にはありえないと思うけれど、その非現実に巻き込まれた登場人物たちの心理描写はとてもリアルです。
作者の北村氏が男性であるということは最初から知っていましたが、もし知らなかったら多分女性だと勘違いしていたと思います。
それくらい女性の心理描写がうまいと感じました。


何よりこの作品の中で惹かれたのは主人公真理子の強さですね。
突然中年高校教師になってしまったという事実を受け入れ、立派に高校教師としてやっていくところがすごい。
特に、30年後の世界で自分の生家がなくなっていることを知るところや、両親に対して「二度と会えない」と悟るところは泣けました。
「昨日という日があったらしい。明日という日があるらしい。でも私には今日がある。」と「今自分が生きているこの時」に正面から向き合って、今を生きようと決意する真理子の姿が強く印象に残りました。
果たして今、私の中に17歳のときの自分が飛んできたら、ちゃんと「17歳の私」は「今の私」を務めてくれるかな…?
そんなことを考えてしまった作品でした。