tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『プリズム』貫井徳郎

プリズム (創元推理文庫)

プリズム (創元推理文庫)


小学校の女性教師が自宅で死体となって発見された。
傍らには彼女の命を奪ったアンティーク時計が。
事故の線も考えられたが、状況は殺人を物語っていた。
ガラス切りを使って外された窓の鍵、睡眠薬が混入された箱詰めのチョコレート。
彼女の同僚が容疑者として浮かび上がり、事件は容易に解決を迎えるかと思われたが…
『慟哭』の作者が本格ミステリの極限に挑んだ衝撃の問題作。

ミステリはやっぱりあっと驚く展開が醍醐味!
そう考えている人にぜひお薦めしたいのが、貫井徳郎さんの『プリズム』。
私が読んだ貫井作品はこれで3作目ですが、『慟哭』も『天使の屍』も、劇的な展開にどんどん引き込まれました。
奥さんである加納朋子さんとはずいぶん毛色が違って、最後に救いがなかったり、やるせない思いにさせられるのですが、ミステリとして非常に面白い作品が書ける実力派だと思います。


『プリズム』は4つの章で成り立っていて、それぞれ語り手が異なっています。
児童から人気のある若い女性小学校教師が自宅で殺された。
死因は頭部の打撲。
事故にも見えるが、部屋には食べた形跡のある睡眠薬入りチョコレートが残されていた。
しかもそのチョコレートは、同僚の男性教師がホワイトデーに送ったものだった…。
4人の語り手がそれぞれの立場からこの事件の真相に迫る。


半分ほど読んだところで、「おや、もしかしてこの人が…?」とひらめくものがありました。
私にしては珍しく途中で犯人が分かった!?と思ったのですが、その推理はあっさり最終章で否定されます。
思うにこのミスリードは作者が意図したものであり、私はその罠にまんまと引っかかったというだけなのでしょう。
この作品では章ごとにどんどん容疑者が変わっていきます。
二転三転する急激な展開の後、最終的な結末には不満をおぼえる人もいるかもしれません。
ですが私は非常に面白いと思えました。
読者自身も推理に参加して初めて成り立つタイプのミステリといえるでしょう。
このようなパターンはバークリーの『毒入りチョコレート事件』のオマージュ的側面があるそうです。
私は未読だったのですが『プリズム』が楽しめたので『毒入りチョコレート事件』にも俄然興味を持ちました。
ぜひ一度読んでみようと思います。