tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『眠れぬ夜を抱いて』野沢尚


ひとつの町で連続して起こる一家失踪事件。
平凡な主婦、中河悠子(33)は、その町の開発者でもある夫を助けるために独自に調査に乗り出していく。
だがそれが悲劇の始まりだとは気づきもしなかった…。
悠子までを巻き込んで展開する残酷な復讐の罠、罠、罠!
果たして彼女は夫の嫌疑を晴らして真相に辿りつけるのか。
超大型サスペンス長編。

何年か前に、「眠れる森」というミステリードラマがあったのを覚えている人は多いと思います。
中山美穂と木村拓哉主演で、一体誰が犯人なのかと視聴者をハラハラさせ、最終回の結末には賛否両論湧き上がった、話題の連続ドラマでした。
このドラマからしばらく、謎解きミステリードラマが流行ったような気がします。
このドラマの原作者であり脚本家であるのが野沢尚さん。
脚本家としても、劇作家としても、作家としても有名になった人です。
彼の作品で、2002年にドラマ化もされた『眠れぬ夜を抱いて』を読んでみました。


中河欧太が経営する会社リバー・ランズが開発した郊外型住宅地、清澄リゾートホーム。
ここに入居した2つの家族が、相次いで謎の失踪を遂げた。
2つの家族の隠された共通点に気付いた欧太の妻・悠子は、この神隠し事件の謎を探り始める。


読んでいてまず思ったのは、なるほどドラマ化を意識して書かれているなということでした。
頻繁に場面転換をし、次々と新しい展開を用意して、読者(視聴者)を飽きさせません。
展開はある程度読めるのですが、それでもページを繰る手が止められないのは、無駄な引き延ばしがなく、テンポよく話が進んでいくからです。


内容的にも、バブルの清算、家族の形、夫婦のあり方といったテーマを盛り込んでいて読み応えがあります。
これらのテーマの共通点は「はかなさ」や「もろさ」でしょう。
かつて多くの日本人に甘い蜜を吸わせたバブルという幻想も、バブルの崩壊をきっかけに誕生することになった清澄リゾートホームも、中河家をはじめとする3家族の3組の夫婦たちも、みな最終的に砂の城のようにもろくも崩れ去ってしまいます。
ラストシーンも、そのはかなさにふさわしい切なさを湛えていて悲しかったです。
しかし、自らを捕らえて離さなかった過去と訣別した欧太は、自らと、家族の幸せを取り戻すために前進する覚悟を持って悠子に背を向けたのだと思います。
悲しいながらも、ほんの少しの希望を覗かせる結末でした。


それにしても…第1章のサブタイトル「遥か群集を離れて」って、もしかしてトマス・ハーディの"Far from the Madding Crowd"からとったのかなぁ??
本文を読んでても、けっこう英米文学の素養がありそうな感じだったし。
内容とは全く関係ないけど。