tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

MY BEST BOOKS OF THE YEAR 2018

2018年もいよいよ終わろうとしています。
今年は思ったほどは本が読めなかったのですが、読んだ本はどれもレベルが高く、面白かったなという印象です。
それでは早速今年のベスト10を読了順で。
対象は今年読んだフィクション全41作品、作家名は敬称略で失礼します。
タイトルはこのブログ内の感想記事にリンクしています。


米澤穂信さんの作品が2つも入ってしまいました。
できれば同じ作家さんの作品は複数入れたくはないのですが、どちらも本当によかったから仕方ない。
あと、なんだか「子ども」をテーマにした作品が多かったですね。


正直に告白すると、実はあと1作品、感想を書くのが間に合わなかった作品があります。
そちらは近日中にまた記事をアップするとして (すみません)、2018年は満点とまではいかないまでも、なかなかよい読書生活を送れた1年だったと思います。
来年もさらに充実させていきたいですね。
この年末年始は、かなり久しぶりに翻訳ミステリに挑戦しています。
まだ読み始めたばかりで、翻訳ものならではの読み心地に慣れるのに少し時間がかかりそうですが、ゆっくり味わいながら読めたらと思っています。


それでは、今年もお付き合いいただきありがとうございました。
2019年もどうぞよろしくお願いします!

『みかづき』森絵都

みかづき (集英社文庫)

みかづき (集英社文庫)


昭和36年。放課後の用務員室で子供たちに勉強を教えていた大島吾郎は、ある少女の母・千明に見込まれ、学習塾を開くことに。この決断が、何代にもわたる大島家の波瀾万丈の人生の幕開けとなる。二人は結婚し、娘も誕生。戦後のベビーブームや高度経済成長の時流に乗り、急速に塾は成長していくが…。第14回本屋大賞で2位となり、中央公論文芸賞を受賞した心揺さぶる大河小説、ついに文庫化。

本屋大賞で2位となるなど評判のよい作品だったので、読むことはかなり前から決めていましたが、実際に文庫化されて手に取ってみて、思った以上の本の分厚さにびっくりしました。
しかも文字が小さい!
物理的なボリュームだけでなく、内容的にも盛りだくさんで非常に読み応えのある物語でした。


本作は大きく3つのパートに分けることができます。
最初は小学校で用務員をしている大島吾郎のパート。
経済的な理由で大学に行けず教員にはなれなかったものの、勉強の教え方がうまい吾郎は子どもたちから慕われ、やがて保護者のひとりである赤坂千明に見込まれて一緒に学習塾をやらないかという誘いを受けます。
この、吾郎が千明と共に塾を開くまでのエピソードがとても面白くて、一気に物語に引き込まれました。
女性からの誘惑に弱い吾郎の人間性や、千明の教育に対する情熱の強さや激しい性格など、作品全体を引っ張っていく要素がこの序盤のわずか数十ページにしっかり詰め込まれていて、あっという間に物語を加速させていくそのスピード感に圧倒されました。
結婚して夫婦となった吾郎と千明が塾の設立後、その塾を軌道に乗せていくまでの物語も面白いですし、ふたりの関係にだんだん亀裂が入っていく過程にはハラハラさせられました。


そして2つ目のパートが、熾烈を極める業界内競争の中、さらに塾を拡大させていく千明の視点の物語です。
千明は公教育や文部省 (現文科省) に対する激しい反発や敵対心を持ち、それゆえに塾を設立して、学校教育がサポートしきれない子どもたちへの教育に情熱を注ぐ女性ですが、彼女はどちらかというと教育者よりは経営者に近いタイプだと思います。
吾郎は教育者タイプで、千明とは対照的なのですが、それが夫婦関係にとってはあまりよくなかったのかもしれません。
離婚はしないまでも、千明のもとを去り、そのまま行方不明になってしまう吾郎。
さらには3人の娘たちもそれぞれの道を進んで、大島家はバラバラになってしまいます。
ただ、修復不可能なほど仲が悪いかというとそんなこともなく、根っこのところではつながっているというか、お互いによく理解し合っているのが大島家の人たちなのではないかと思います。
理解しているからこそ一緒にいるのが大変、ということもあるんだなと感じました。
家族とは有り難くも厄介なものでもありますね。


最後は吾郎と千明の孫、一郎のパートです。
不景気の中、就職活動がうまくいかずにアルバイト生活をしていた一郎は、あるきっかけから塾に通わせる余裕のない家庭の子どもたちの勉強を無償で見る会を主宰することになります。
身内に教育関係者が多いせいでなんとなく教育に苦手意識を持ってきた一郎が、結局は教育に関わるようになっていく過程は、吾郎と千明のパートとはちょっと毛色が違っていて、そこが面白いと感じました。
学校を補足する教育機関としての塾、そしてさらにその塾に行けない子どもたちのための教育の場。
教育の現場が時代に合わせて変遷していく様子が説得力を持って描かれていました。


3つのパートを通して、日本社会の変化と学校や塾の変化がリンクされて描かれており、戦後から現在までの日本の教育史を時系列で追うことができました。
教育にまつわる政策や教育行政についても作中で詳しく説明されており、特にゆとり教育の真の目的に関する鋭い指摘にはハッと目を見開かされる思いがしました。
私自身、大学で多少なりとも教育について学び、教員免許も取得しましたが、なかなかここまで過去にさかのぼって日本の教育について考える機会は今までなく、その点で本書は非常に勉強になる本でした。
その上で家族を描いた小説としても面白いのだから、なんだか得した気分です。


タイトルの「みかづき」は、吾郎が千明のことを評して「みかづきのように決して満ちることがない」人というところから来ていると思いきや、それだけではなくもう一つの意味が込められています。
そのもう一つの意味こそ、作者がこの作品で描こうとしたテーマなのだと思います。
その意味を知った時、なるほどと感心すると同時に深い感動に襲われました。
これほどまでに教育というテーマを掘り下げてその光と影を丁寧に描いた小説作品は初めて読みましたし、塾という学校外の教育機関から描くという視点も新鮮でした。
教育は国の根幹を支えるもの。
教育関係者でなくても、子どもがいなくても、すべての人に関係があるのが教育というものだからこそ、どんな人にでもおすすめしたい作品です。
☆5つ。

Mr.Children Tour 2018-19 重力と呼吸 @大阪城ホール (12/23)

*曲名、演出ともにネタバレを多く含みます。


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頭上に降り注いだ桜の花びら (後述)


アルバム「重力と呼吸」を引っ提げてのツアー国内最終公演に参加してきました。
ミスチルのアリーナツアーはファンクラブに入っていてもチケットが激戦で取りづらいのですが、今回は運よくFC先行でチケット入手に成功しました。
しかも日程的に一番激戦の公演だったと思われます。
これだけでも幸運に恵まれすぎていると言えますが、さらに座席はアリーナ16列、前が2列分空いていたおかげで、とても見やすい場所でした。


ライブは、アリーナの一番前にいたスタッフさんが手拍子を煽るところから始まりました。
いつもはオープニング映像が流れることが多いのですが、今回はビジョンがなく (途中で上から降りてきましたが) 光を駆使したオープニングで、照明でステージが真っ白になった次の瞬間、メンバーの姿が現れて1曲目の「SINGLES」の演奏が始まるという流れは、シンプルかつ印象的で、今回のライブが今までにない新しいものになるだろうと予感させるものでした。
その期待は裏切られることなく、新鮮な演出の数々に何度も釘づけにさせられました。
特に印象に残っているのは、「花 -Memento-Mori-」の時の演出です。
この曲はメンバー4人がアリーナ中央の花道に縦に並ぶ形で演奏されたのですが、その4人の立ち位置に合わせて紗幕が下ろされ、そこに映像が投影されました。
私はアリーナの、ちょうど正面にJENを望む場所から見ていたのですが、アリーナのほぼ半分を大胆に使った演出は非常にダイナミックで、向こう側が透けて見える薄い幕にほのかに映る映像はとても幻想的でした。
この紗幕の演出はアンコールの「風と星とメビウスの輪」でも使用されていて、曲の雰囲気ともよく合っていて、とてもよかったです。
他には「ハル」の時にアリーナに降り注いだ桜の花びら (パラフィン紙のような薄くて軽い紙でできている)、どの曲の時だったか忘れてしまいましたがレーザー光線の演出も素晴らしかったです。
どれも会場全体を使った大規模な演出で、特にアリーナから見ていると、自分もその演出の一部になっているかのような気持ちになれて、ライブならではの一体感がいつも以上に感じられました。
スタンドから見るとどんな景色だったのかも気になりますが、これはライブDVDが発売された時に確認するのが今からとても楽しみです。


セットリストは比較的新しめの曲が多かった印象です。
ミスチルの場合はアルバムツアーでもアルバム外の曲が多く演奏されることもあるのですが、今回はアルバム「重力と呼吸」からの選曲が多くてそれも好印象でした。
やはり新しい曲が出た時はそれを早く生で聴きたいと思うもので、その期待に十分応えてくれました。
今回のアルバムの中では「addiction」と「皮膚呼吸」が特に好きなのですが、生で聴いてもっと好きになりました。
特に「皮膚呼吸」は直前の桜井さんのMCが心に響きました。
曰く、「この会場のみなさんはほとんどの人がティーンエイジャーじゃないということを僕は知っています。でもティーンエイジャーじゃなくても、夢や憧れや理想を持っていたっていいと思うんです」と。
この言葉には会場のあちこちから「そのとおり!」という声が飛んでいましたが、私にとっても非常に共感できる言葉でした。
年齢に関係なく、夢も憧れも理想も、人間が生きていく上での原動力となるもの。
それをしっかり持っていて、「まだまだやりたいことがたくさんある」と力強く宣言できる桜井さんはかっこいいと思いましたし、ミスチルの今後の活動にも期待を持たせてくれてうれしく思いました。
その後に聴いた「皮膚呼吸」の歌詞の響くこと響くこと。
ツアータイトルでありアルバムタイトルである「重力と呼吸」はこの曲から来ていると思いますが、さすがタイトルチューンといえるだけの重みと存在感を放つ1曲でした。


ツアーはまだ2月の台湾公演が残っていますが、早くも春からのドームツアー「Against All GRAVITY」が発表され、新しい楽しみが増えました。
アリーナツアーとは演出も曲目も変わってくるでしょうし、今度はどんな形でアルバム「重力と呼吸」の世界を見せてくれるのか、期待が高まるばかりです。
また必ずチケットを取って、Mr.Childrenに会いに行きます。