tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

MY BEST BOOKS OF THE YEAR 2017

さあさあ、2017年も最後となりました。
毎年恒例となっております、マイベスト10企画をお送りします。
今年読んだ48作品 (小説のみ) の中で特によかった10作品を読了順でリストアップしています。
作者名は敬称略です。
書名をクリックすると私の感想ページに飛びます。


『旅猫リポート』 有川浩
『空飛ぶタイヤ』 池井戸潤
『冬虫夏草』 梨木香歩
『トオリヌケ キンシ』 加納朋子
『鹿の王』 上橋菜穂子
『Aではない君と』 薬丸岳
『満願』 米澤穂信
『サラバ!』 西加奈子
『神様のカルテ0』 夏川草介
『Masato』 岩城けい


え、リンクが貼られていないタイトルがあるって?
――はい、すみません、『Masato』はつい先日読み終わったばかりで、まだ感想を書けておりません。
とても良い作品だったので、じっくり感想を書いて何日か後にはアップしたいなと思っています。
アップ後にまたリンクを貼りますね。

【2018/1/3 追記】『Masato』の感想記事にリンクを貼りました!


こうして振り返ってみると、今年もミステリからファンタジーまで、バラエティに富んだ読書ができて満足です。
今年初めて読んだ (アンソロジーは除く) 作家さんは、又吉直樹、北川恵海、住野よる東山彰良の4名とちょっと少なめでした。
来年はもっと新しい作家さん、新しいジャンルにも積極的に挑戦していきたいですね。


今年も拙い文章を読んでいただきありがとうございました。
来年もよい本との出会いがたくさんありますように。

『太宰治の辞書』北村薫

太宰治の辞書 (創元推理文庫)

太宰治の辞書 (創元推理文庫)


みさき書房の編集者として新潮社を訪ねた《私》は新潮文庫の復刻を手に取り、巻末の刊行案内に「ピエルロチ」の名を見つけた。たちまち連想が連想を呼ぶ。卒論のテーマだった芥川と菊池寛、芥川の「舞踏会」を評する江藤淳三島由紀夫……本から本へ、《私》の探求はとどまるところを知らない。太宰が愛用した辞書は何だったのかと遠方にも足を延ばす。そのゆくたてに耳を傾けてくれる噺家。そう、やはり「円紫さんのおかげで、本の旅が続けられる」のだ……。《円紫さんと私》シリーズ最新刊、文庫化。

「円紫さんと私」シリーズのファン待望の最新刊です。
解説を書かれている米澤穂信さんの「まさか、また読めるとは思わなかった――。」という言葉がすべてのファンの思いを代弁してくれていますね。
本当に、まさかの続編刊行に、心躍りました。


前作『朝霧』はもう10年以上前の作品です。
作中の時間が現実の時間と呼応しているわけではありませんが、作中時間もずいぶん進んで、大学を卒業して編集者としての道に足を踏み入れた主人公の「私」は、今作では結婚して中学生の息子もいる立派な「おばさん」になっています。
でも、歳をとっても文学への愛情と謎解きを楽しむ心は全く変わっておらず、その「私」らしさにうれしくなりました。
編集者としても脂がのってきた頃でしょうか、本や文学に関する疑問が湧いてくるとすぐさま動いて調べる「私」には天職ともいえるぴったりの職業で、なんだかうらやましく感じました。
そしてもちろん、人生の経験を重ねて変わった部分もあって、「私」はもはや謎解きに関して円紫さんに頼りっぱなしではありません。
探偵役は円紫さんから「私」に移ったのです。
もちろん円紫さんは「私」にとって変わらず頼りになる師であり、今回もしっかり「私」を導く役目を負っていますが、ふたりの関係性は「私」が大人になったことでより対等なものへと変化しています。
円紫さん自身も大真打ちとなり、自分で謎解きをするよりは一歩引いたところでどっしり構えて「私」を見守る役目が似合うようになっており、降り積もった時の重さを感じて感慨深くなりました。


さて、今回「私」はタイトルにも含まれる太宰治をはじめ、芥川龍之介三島由紀夫といった日本の近代作家についての謎を追いかけ、真相に迫っていきます。
編集者という立場を活かして実在の出版社へ出かけて行って貴重な資料や本を見せてもらったり、文学館に問い合わせの電話をしたり、遠方の図書館へ出かけていったりと、丁寧に資料を追いかけ検証していく様子が描かれていますが、これは『六の宮の姫君』で卒論を書くためにリサーチしていた様子を思い起こさせ、懐かしい気持ちになりました。
もしかしたら「私」自身も懐かしい気持ちになっているのかな、などと想像すると楽しいです。
また、この調査の過程は、多少創作部分が加えられているとしても、大部分は作者の北村さん自身がたどった道のりなのだと思われます。
「私」が主人公の小説でありながら、作者の思考と行動がその裏に透けて見えるのが、他の小説にはない不思議な読み心地でした。
謎解きに主眼を置くミステリというよりは、どちらかというと作者自身の文学論という印象が強く、その点はシリーズの最初の方の作品とは大きく異なります。
それでも「謎を追う」という部分はシリーズを通じて一貫しています。
文学を論じるということは文学にまつわる謎を解くことなんだなと、北村さんに教えてもらったように感じました。


日常の謎ミステリという期待を持って読むと肩すかしですが、とにかく「私」と円紫さんにまた会えたことがうれしかったです。
作中に登場する文学作品や作家についても興味深いエピソードや引用が豊富で、普段あまりなじみのない文学の世界に触れることができ刺激になりました。
ぜひさらなる続編を読みたいです。
☆4つ。


●関連過去記事●
tonton.hatenablog.jp

『3時のアッコちゃん』柚木麻子

3時のアッコちゃん (双葉文庫)

3時のアッコちゃん (双葉文庫)


澤田三智子は高潮物産の契約社員。現在はシャンパンのキャンペーン企画チームに所属しているが、会議が停滞してうまくいかない。そこに現れたのが黒川敦子女史、懐かしのアッコさんだった。会議に出すアフタヌーンティーを用意して三智子の会社に五日間通うと言い出した。不安に思う三智子だったが…!?表題作はじめ、全4編を収録。読めば元気になるビタミン小説、シリーズ第二弾!

威圧的で強引だけれど、面倒見がよく頼り甲斐のあるキャリアウーマン・「アッコさん」こと黒川敦子が、働く女子たちの悩みを解決する短編集『ランチのアッコちゃん』の続編です。
勤めていた教材出版社が倒産した後、「東京ポトフ」という移動式ポトフ販売のお店を立ち上げたアッコさんが、今回も元部下である澤田三智子をはじめとする女子たちを助けています。


表題作「3時のアッコちゃん」では、三智子が所属する部署の会議に毎日アッコさんが現れて、本場英国仕込みのアフタヌーンティーを振る舞うというお話です。
ダージリンやアッサムなどさまざまな紅茶と、それに合うお菓子や軽食が供され、読んでいるだけでおいしそうだし、私もここに混ざりたいなどと思えてきます。
ティータイムを組み込むことで会議の雰囲気が少しずつよくなっていき、下っ端の三智子にも自分の意見を言い、自らが考えた企画を発表する機会が生まれます。
前作ではなんとも頼りなく覇気もなかった三智子が、派遣社員から契約社員に少しステップアップし、成長したところを見せていてうれしくなりました。
もちろんそれはアッコさんのさまざまなアドバイスと叱咤激励のおかげなのですが、自分の頭で考え、勇気を出して発言したのは紛れもなく三智子自身。
彼女の頑張りに拍手を送りたくなる、爽やかな読後感でした。


第2話の「メトロのアッコちゃん」や第4話の「梅田駅アンダーワールド」は過去の自分と主人公の女の子を重ねて読みました。
「メトロ」はブラック企業で疲弊する若い女子社員を、「梅田駅」は就活中の女子大生を描いています。
氷河期世代の私も就職活動には苦労し、なんとかブラックに限りなく近い企業に就職して、数年後激務と精神的疲労に耐えかねて退職したという経験を持っているので、この2話の主人公たちの気持ちは分かりすぎるくらい分かりました。
「メトロ」の方ではアッコさんが地下鉄で通勤する主人公に、通勤ルートを変えてみることを提案するのですが、これには膝を打つ思いでした。
私も地下鉄通勤をしていたことがありますが、駅も電車の中も暗く、朝でも太陽の光が見えないせいか、気分が上がりにくいのです。
特に長時間労働や職場での人間関係などに疲れているときには、そんな暗い場所にいるとどんどん気が滅入ってきて、前向きな気持ちを持つことが難しくなります。
まずそんな状況を変えてみればいい、というアッコさんのアドバイスは的を射ているなと感心しました。
できることならこのアドバイスを過去の私にも読ませたかったくらいです。
「梅田駅」では就活がうまくいかず、慣れない土地で道に迷って雨まで降ってきて――という女子大生の散々な状況に同情し、でも最後は開き直ったかのように前を向く彼女の姿がすがすがしく、エールを送りたくなりました。


実は3話と4話にはアッコさんはほとんど登場しないのですが、それでもなんとなくアッコさんの存在感が感じられる、というのが面白かったです。
この2話は舞台が関西で、神戸の岡本でのイノシシ騒動だとか、「梅田ダンジョン」と呼ばれる複雑怪奇な地下街だとか、関西人の私には舞台となっている場所の空気感までリアルに想像できて余計に楽しめました。
この「アッコちゃん」シリーズは主に若い女性をターゲットにした作品だと思うのですが、若い女性たちを指導する立場のアッコさん側の人にも、物語を楽しみつつ自分の後輩指導の参考にもできそうでおすすめです。
3作目の『幹事のアッコちゃん』もすでに刊行されており、続きを楽しみにしています。
☆4つ。


●関連過去記事●
tonton.hatenablog.jp