tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『MIX (10)』あだち充


VS東秀戦、決着…!?
ついに辿り着いた東東京大会準決勝!
東秀高校の怪物投手・三田を前に圧倒的不利と
思われた明青学園だが、投馬の快投によって
両校無得点、まさかの接戦が続く…!
しかし、元々は明らかにチーム力の劣る明青。
微妙に戦況は変化していき、
そして………………………!?

ええと……実はこれ、昨年末に読んだんですが、感想を書きそびれていました。
もう4か月近く経ってしまって、今さらではあるのですが、今書いておかないと次の巻も感想を書けなくなるので、やっぱり書いておこうかなぁと。
マンガはさらっと読んでしまうのでどうも感想を書くのを忘れがちでいけないですね (言い訳)。


9巻から引き続き、強豪の東秀高校との準決勝。
長く低迷が続いていた明青学園、しかもエースはまだ1年生と、圧倒的不利な状況を覆して誰も予想しなかった接戦になるという、熱い展開です。
やっぱり野球マンガはこうでなくっちゃ。
あだちさんの作品はスポ根には程遠いですが、それでもスポーツの面白さはしっかり伝わってきます。
敵いそうもない相手に立ち向かっていくというのもスポーツマンガの王道ですが、王道ど真ん中を進みつつ、あだちさんらしい独特の間合いの取り方や洒落の利いたせりふが個性を放っています。
本作の場合は随所に『タッチ』ファンの心をくすぐる要素が盛り込まれているのもうれしいところ。
相変わらず読みどころ満載で飽きさせません。


個人的にもうひとつあだちマンガの好きなところは、主人公の高校生世代だけではなく、親や監督といった大人世代もしっかり描かれるところです。
この巻では立花兄弟のお母さんと、マネージャーの春夏のお母さんが、立花家で一緒に準決勝の様子をテレビで見守る場面が出てきます。
有望な野球選手として世間からも注目されてはいても、やっぱり高校生は親にとってはまだまだ子ども。
あたたかく見守る親たちの姿が微笑ましいです。
なんとなく、『タッチ』の最後の地方大会決勝戦で、達也の両親が手を握り合ってテレビ観戦する場面を思い出しました。


この巻はちょうど東秀戦のゲームセットの瞬間で終わるのですが、熱い投手戦の結末の付け方がこれまたあだち作品らしいなとうれしくなりました。
11巻からは新展開かな。
ずっと試合の場面続きだったので、そろそろラブコメ方面での進展も期待したいところです。
そういえば、『タッチ』で描かれなかった「あのシーン」が『MIX』に登場、とネットニュースになっていましたね。
その場面も早く見てみたいです。

『リバース』湊かなえ

リバース (講談社文庫)

リバース (講談社文庫)


深瀬和久は平凡なサラリーマン。自宅の近所にある“クローバー・コーヒー”に通うことが唯一の楽しみだ。そんな穏やかな生活が、越智美穂子との出会いにより華やぎ始める。ある日、彼女のもとへ『深瀬和久は人殺しだ』と書かれた告発文が届く。深瀬は懊悩する。遂にあのことを打ち明ける時がきたのか―と。

イヤミスの女王」と呼ばれるほどになった湊かなえさん。
最近はノンミステリ作品も発表されていますが、本作はどっぷりと湊かなえワールドに浸れるミステリです。


コーヒー好きのサラリーマン・深瀬は、行きつけのコーヒーショップで出会った女性・美穂子と付き合い始めますが、3か月が経った頃に美穂子のもとに怪文書が届きます。
それをきっかけに深瀬は、大学生の頃に起こった親友・広沢の交通事故について美穂子に告白します。
その事故に関わっていた仲間にも同じような怪文書が届いており、さらには駅でホームから突き落とされる被害に遭った仲間もいると知った深瀬は、広沢の故郷へ向かい、自分の知らない広沢のことを調べ始めます。
その過程で明らかになった意外な事実、というのがこの作品のミステリ部分の肝かな、と思いきや、さらにその先、最後の最後に明らかになる真相こそが、作者の目指した本当の着地点でした。
いわゆる「フィニッシング・ストローク (最後の一撃)」と言っていいかと思います。
うわあ、なるほど、この結末、この一文で終わらせるのか、と感嘆させられました。
丁寧に伏線を重ねてきたからこそ成立するフィニッシング・ストロークですが、これは伏線っぽいなというのが比較的わかりやすかったためか、まさかそんなところから真相が!といったような強い衝撃はありませんでした。
ただ、この最後の一文は非常に効果的でうまいですね。
その一文のおかげで、物語の続きが非常に気になるのです。
広沢の交通事故に関する真相を知った深瀬は、この後どうするのだろう。
大学時代の友人たちや美穂子と、今まで通りに付き合っていけるのか。
抱えてしまった秘密を、ひとりで背負っていくのか、それとも誰かに告白するのか。
想像が無限に広がります。


だからなのか、イヤミスといっても私は結末自体にはそれほど不快感は感じませんでした。
嫌な気持ちになるより、これからどうなるのかという興味の方が勝りました。
むしろ、主人公・深瀬の性格や心理描写の方が不快に感じたくらいです。
深瀬は地味で冴えない、今風に言うとスクールカーストで下位に属するタイプの人物です。
本人にもその自覚はあり、そのせいなのかとにかく卑屈な考え方が目立ちます。
確かに人から好かれるタイプではないだろうなとは思いましたが、ちゃんと長所もありますし、人間的に決して悪いわけではなく、優れているわけでもありませんが「普通の人」と言っていいと思います。
そんなに委縮したり卑屈になったりする必要は全くないのに、なぜここまで卑屈なものの考え方をするのか、というところが非常に気になりました。
そんな「イケてない」主人公に彼女ができて幸せをつかみかけたと思ったところに、何者かの悪意が見えて辛い過去に向き合わされて、最後にとんでもない真相に気付かされるという、その展開こそがイヤミスなのかもしれません。
主人公に対する容赦のなさ。
それが本作で湊さんが見せた「イヤミスの女王」らしさなのかなと思いました。


ミステリと関係ないところでは、コーヒーに関する描写がとても魅力的で、思わずコーヒーを飲みたくなる場面がいくつもありました。
湊さんは以前、朝日新聞の「作家の口福」というリレーエッセイで、現在住んでおられる淡路島の食べ物の数々を紹介されていたのですが、それもまたとてもおいしそうで淡路島グルメに強く惹かれたものでした。
どうやら食に関する描写がうまいようなので、ぜひグルメミステリにも挑戦していただきたいものです。
グルメなイヤミス……うーん、ちょっと満腹感がありすぎるかな、という気がしないでもないですが。
☆4つ。
連続ドラマも始まりますが、原作にはない雪山でのシーンがあるようなので、展開は小説とは異なるのでしょうか。
深瀬役が藤原竜也さんということで、どんなドラマになるのかこちらも気になるところです。

4月の注目文庫化情報


新年度が始まった途端、仕事が忙しくなってきました。
まぁこの時期は年度末に引き続き慌ただしい季節ですよね。


そんな中、4月の文庫新刊はなかなかバラエティに富んだラインナップでうきうきしています。
まず『有頂天家族』は1作目が面白かったので続編も絶対に読まなくちゃ。
坂木さんの「ホリデー」シリーズも大好きです。
そして何と言っても毎年4月のお楽しみ「東京バンドワゴン」シリーズ!
さらに話題作「きみすい」が早くも文庫化なんですね。
ゴールデンウィークに向けて (気が早い?) 面白い本をたくさん仕入れないと。
書店に行くのが楽しい1か月になりそうです。